昔の話は面白い
私は明治あたりの娯楽物語を読むのが趣味なんだけど、実際見たッ!!! みたいな話はメチャ面白い。
『上野合戦 桃川燕林 口演 今古堂 明治二七(一八九四)年』は、いわゆる講談速記本で、講談師が語ったことを速記したものである。演者の桃川燕林は、実際に上野の戦争で官軍に捕まってしまい、殺されそうになったんだけど、たまたま燕林を知ってる人が通り掛り、「そいつは講談師だッ!!」って絶叫してくれたため助かった……という風に、こんな知ってもあんまり意味がない話が面白すぎる。
明治に限った話ではなくて、ジイさんやらバアさんの話は面白い。
私の知人のジイさんから聞いたものだと、戦時中にずっと塩を作り続けたって話がものすごく良かった。その人はいわゆるエリートで、大学を卒業し、そこそこ偉い人として戦争に出る予定だったんだけど、肺の病気になってしまい、日本国内に留まることになる。で、なぜか肺の病気になった人々を寄せ集めた、塩を作りまくる部隊の隊長になる。そんな部隊があったのかどうか、私は知らないんだけど、とにかくジイさん(元若者)は肺の病気であった人々とともに塩を作る。海の近くだから空気が良い上に、魚が豊富だから栄養状態も良好、そして塩を作るために材木も必要だから運動もする。そんなわけで、みんなの病気は治ってしまう。そしてジイさんは、効率最優先の合理的人間みたいな人であった。だから塩もメチャ生産する。生産しすぎくらいに生産してしまい、やがては周辺の山から木がなくなってしまい、どうしよっかーと相談しているあたりで終戦を迎え、健康になった人々はそれぞれ故郷へ帰っていく……なんて話なんだけど、とこういうものを面白いって私は感じてしまう。
ってなわけで、ここ最近、私が面白いって思った戦時中に生きてた人の話が読める PDF を紹介していく。
紹介する前に
私が明治の娯楽物語を好んで読む理由は、明るいからってのがある。明るいだけではなくて、まだまだ教育なんかが微妙だったこともあり、スゲー馬鹿がいたり、現代人の目から見ると完全体の狂人が書いたとしか思えない書籍なんかもある。そういうものを、私は面白いって感じる。
ところが昭和になると教育がちゃんとなされていて、全体的に頭が良くなっている。人は頭が良いと苦悩する。あと時代的にも悲惨なんで、読んでて暗い気持になることがある。
それでも実際にこんな目にあったッ!!! って話はメチャ面白い。ジイさん、よくそれ切り抜けて生き残ったなとか、バアさんギリ生存してヤベェとかそういう感じである。自分が知ってる事と、生きてた人々の体験が違ってたりするのも最高だし、不思議な話なんかが出てくると興奮する。
ただそういう読み方は不謹慎だッ!! って意見もある気がしないでもないし、私自身もヤベーって楽しみ読みつつも、もっと真面目に読んだほうが良いのかなってって思わないでもない。ただ実際に人間が体験しちゃったことは、体験したことであり、帳消しにすることは出来ない。悲しいことがあったのは仕方ない。
またジイさんバアさんの話に限ったことでもないんだけど、実際に見たッ!! 実際に遭遇したッ!! って話は、強烈だけどそれが全てではないっていう点は注意しておいたほうがいい。歴史っていうのは巨大であり、人間っていうのはチビっこい。一人の人間が体験したことってのは、それだけの話でしかない。
さらに難しいのは、昭和だと思想が混ってくる点だ。そして感覚も、今生きてる人とはかなり違う。ある年代を境にわりとカジュアルに残酷発言するみたいなのがあると思うんだけど、あれが感覚の違いだ。思想に関しては、今だとネトウヨとパヨクみたいなもので、話を読んでる際に違和感があったり狂気を感じたりもする。そういう部分も楽しめると良いのだが、今もかなり変な時代だからなかなか難しいかもな。とにかく話は話って思いながら読むと良いんで、話は話って思いながら読んでください。
近代の資料の読み方については、以前に書いたことがあるんで、よろしければどうぞ。
ってわけで、実際に紹介をしていく。
太平洋学会学会誌
なにを目的にした雑誌だか知らないんだけど、ジイさんの話が大量に存在している。中でも八路軍の話は面白すぎてヤバかった。
文化差研の差異に関する研究部会報告 (51) 第五十一回セッション 八路軍に八年間 - 国立国会図書館デジタルコレクション
南洋生活の話もオススめです。
マグロをみんなで食った報告もあり、とにかく最高の雑誌である。
文化差研番外セッション マグロづくしを食べる - 国立国会図書館デジタルコレクション
中国残留邦人聞き書き集
大正5年産れのタイピストの人の話がスゴく良かった。面白くて興味深い話が満載なんだけど、バアさんは明朗活発な女の子だったみたいで、大正の文化の話なんかも多少出てくる。
悲惨なことがあるものの、どこか明るさがあり、花王名作アニメ劇場の主人公のような雰囲気がある。
偕行「アーカイブス」:「白団」物語
偕行社っていうのは「英霊に敬意を」「日本に誇りを」みたいな団体である。そういうのはあんまり好きじゃない人もいるかもしれないけど、思想とかは関係なくジイさんの話は別格であり『「白団」物語』っていうのが面白い。
特にこの話は、話は話って思いながら読むのがおすすめです。
面白便利世界
紹介してきたものは、戦争の話ばかりである。そういうものを読む際には、身構えちゃったりする人もいるかもしれない。だけど普通に読むのが良いと思う。昔だと普通に読むのは難しかったけど、今だとわりと簡単に出来ちゃう。
現代はすごい便利な世の中で、読もうと思えば様々なものが読める。公開されているものなら、論文だって読むことができる。あんまり公開されてないんで、さっさと無料で色々な分野の論文読めるようになって欲しいものですが、これはただの希望です。とにかく私は日本語で書かれたものなら、なんでもかんでも読む。インターネットに漫画の試し読みみたいな広告が出てきて、たまにクリックするけど私は10ページくらいのサンプル読んで満足する。なんでかっていうと、続きとかどうでもいいからなんだけど、重要な資料や論文なんかも、そういう読み方をする。
これは基本的な考え方からすると、かなり駄目な読み方である。ただし個人的には、今の読みかたのほうが純度が高いように感じる。かって私も図書館に行ってゴミみたいな手続したり、古書店へ通って店主と仲良くなって本探してもらったりとかして、ありがたがって本を読むみたいなことをしていた。今でもたまにやるんだけど、そうすると行為自体に愛着のようなものを持ってしまう。愛情が出ちゃうと、客観性が少しだけ減る。
デジタル化された資料が増えてきて、今では読む以外の要素がかなり少なくなった。だから苦労だとか面度くささとか、読むまでの難易度に左右されず、純粋に内容だけを読むことができる。
紹介した資料は、それぞれ立ち位置みたいなものがあるんだけど、デジタル化されているから好きなところだけ読むことができる。クリックしたら読めるわけで、苦労もしない。そして素晴しい読み物を読むことが出来る。ちなみに私の解説は、極力少なくしてある。先入観はないほうがいい。
読む時は誰でもひとりぼっちである。だから自分だけの感想を持つことができる。同じものを読み、少し笑う人もいるかもしれないし、悲しい気持になる人もいかもしれない。怒る人もいるんだろうなって思う。私はそういう体験が良いって思う。そんなわけで、夏休みにでも昔の人の話を読んでみてください。
- 作者: ショウペンハウエル,Arthur Schopenhauer,斎藤忍随
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1983/07
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