山下泰平の趣味の方法

これは趣味について考えるブログです

大正時代の健康法を5年くらい実行してたら普通になったので1万文字くらいかけて紹介する

私は明治やら大正時代が好きで調べてる。それだけじゃなくて、当時流行してたことを実際にやってみるのも好きだったりする。昔だから今より全てにおいて水準が低いので、実行してもあんまり意味ないんだけど面白いからやってる。

大正時代の健康法も実践してることのひとつで、特に効果とかないけど害もない。ものすごい普通さである。しかしイカれた健康法を続けていると、なんか面白い気分になる。面白くて普通なのは最高だと思う。というわけで私が実際にやってる健康法を紹介をしていく。

一応は書いておくけど、心身健康な人は紹介する健康法を別にやっても良いと思うけど、病気の人は病院に行ったほうが良いと思う。明治大正の健康法より現代医学のが強い。そして基本的に明治大正の健康法は、気合があったら健康になる! 気合を入れろッ!! 魂で勝負だッ!!! ってのが多い。

病気の人は気合とか意気とか魂に勢いがない。

だから明治大正の健康法は効果ない可能性高い気がするし、病人は病院行くのが一番であるというわけで、大正時代の良い健康法を紹介していく。

健康法レジェンド井上正賀

日本の健康法の歴史を語るのならば、絶対に外せないのが井上正賀である。古い本が好きな人なら、その名前を知っているかもしれない。井上正賀は農学博士で、メチャ健康法を開発してた男である。農学博士だから椎茸の栽培の普及に努めたりもするけど、健康法も書くから表現がすごい大袈裟で最高である。

椎茸だけじゃなくて、朝顔や牡丹の栽培方法やら、若返り法や不老長寿方法なんかの本を書きまくっている。

ある界隈の人々は井上さんの節操のなさを笑ったりする。ただこの人が健康法を考案しはじめたのには、ちょっとした理由がある。

かって彼の息子さんが病気になった。井上さんは農学士である。だから科学的に物事を考える。当然ながら医者へ息子を連れていき、その指示に従ったて治療をしたものの、残念ながら息子さんは死んでしまった。この出来事がきっかけとなり、彼は独自の健康法の研究に没頭し始める。だから医療をムシった健康法が多いし、医学を攻撃することが多い。

少し悲しいお話で人生って色々あるんだねぇって感じだけども、基本的に当てずっぽうで書いてるから、相撲取り裸だから裸で暮したら健康になるとかそういう感じで全てが進んでいく。

こういう粗雑さが私は大好きなので、井上正賀さんの『粗食主義蛮勇生活』っていう健康法を実行したりしている。この健康法を一言で説明するとこうなる。

『むき出し生活』最高すぎるが、普通の人は意味が分からないと思うんで、この健康法を簡単に説明しておく。

まず味というものは食物ではなくて舌にある。よく分からないと思うんだけど、物質に味はあるけど舌がなければ認識することができない。舌があるから味が分かるわけで、それなら舌がなければ味もないのと一緒だろがといった理論であり、デカルトの物心二元論とかそうういう感じだと思う。それで食物の科学分析は意味ない。

俺はあると思うけど、正賀がそう言うんだから仕方ないよな。それで味噌の効果は絶大です。

他にも色々とあるんだけど、結論としては精神の力で飯を食えということになる。

精神の力で飯を食うとはどういうことかというと、疲れた時に甘かったり塩からいものを食べたくなる時があると思う。今日はなぜか春菊を食べたいとか、魚が食いたいとか色々とある。なぜそんなことになるのかというと、舌に味があるからで、脳が人体に足らない栄養素を察知し、舌が味を再現し食いたいッ!! っていう気持を作り出しているからである。ようするに食いたい時に食いたいものを食えッ!! っていうのが『粗食主義蛮勇生活』であり『むき出し生活』です。

『粗食主義蛮勇生活』は他にも色々あるんだけど、実行したらわりとカジュアルに死ぬ部分がある。

『粗食主義蛮勇生活』に限らず昔の健康法は、完全に守ると死ぬようなものがある。だから死ななそうな部分を選び、適当に実行する必要ある。明治大正時代の健康法を実行するというのは、命懸けの知的遊戯だと言えよう。

ちなみにこの健康法、わりと効果があるような気がしないでもない。私はこういう感じで日常生活で活用しています。

cocolog-nifty.hatenablog.com

ただし偏食傾向のある人は味や食品の脳内データベースが貧弱なんだろうから、実行すると危険だと思う。

完璧に実行すると死ぬ健康法

明治から大正時代っていうのは海外に追い付け追い越せみたいな雰囲気があり、なにかを普及させるため極端な状況になることが多かった。衛生って概念が普及しはじめると、なんでもかんでも煮沸しろッ!! みたいなブームが起きる。そんなブームに乗せられるのバカだけだろって思うかもしれないが、森鴎外なんて知的水準が高い人もなんでもかんでも煮沸してグダグダになった野菜を食って喜んでたりしていた。

一通り普及すると、なにが衛生だボケ細かいこと気にしてっから精神病になるんだ馬鹿野郎ッ!!!みたいな人も出てくるんだけど、そういう奴らの健康法を忠実に実行すると、先刻も書いたように死んでしまう。だからそういう健康法は実行していないんだけど、最高すぎるのが『抵抗強健術』だと思う。

考案者は謡曲やら野球で有名な横井春野さんである。しかし今はそういうことはどうでもよくて、とにかく『抵抗強健術』はヤバい。

絶対に泥水を胃に注入したくないが、生野菜食べるの普通では? って思った人がいるかもしれない。実は生野菜を食べるってのは最近に出来た習慣で、昔はあんまり食べたりしなかった。なんでかっていうと衛生状態が全体に悪くて全てが小汚かったからなんだけども、そういう話はどうでもよくて、『抵抗強健術』はとにかくありとあらゆることに抵抗するっていうのがポイントであり、夏に負ける奴は弱いから夏に勝てッみたいな気合がある。

夏にコタツに入るみたいな我慢大会は江戸時代あたりでも開催されている。だからこれは春野さん独自のものではない。ただ今でも暑い時に暑いっていうな寒いって言えみたいな頭おかしな奴いると思うけど、あれを始めたのはどうも春野さんっぽい。

それで細かいことは気にしない。風邪とかキャッチボールしてたら治る。

これは春野は強いから良いかもしれないけど、普通の人は無理だよなっていう健康法で、今の人がこんなことしてたら警察に通報とかされる可能性あると思う。

『抵抗強健術』は弱い人間には出来ない健康法なので、私はやってないです。

最高の呼吸法

明治時代の健康法で流行していたのは呼吸法で、とにかく良い呼吸をしたら健康になるし、日本人全員が丹田呼吸したら体格良くなって白人と戦争しても負けねぇだろという風潮があった。座禅をしながら丹田呼吸するとか、常時呼吸を整えるとか、色々なバリエーションがある。ついでに寒風摩擦みたいなものがセットになっている健康法も存在している。色々な流派があるんだけど、基本は腹式呼吸を使い15秒吸って15秒はく。これを自然にできるようにする。あと口じゃなくて鼻で呼吸するのもポイントである。

効果があるんだかないんだか知らないけど、呼吸法はとにかくメチャ難しいっていう弱点があった。だいたいこういう感じの難しさだと思う。

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ジョジョの奇妙な冒険 (5) 集英社文庫―コミック版 第3印 荒木飛呂彦 集英社 2002 P249

この画像を探すため、久々に荒木飛呂彦さんの漫画を読んだけど、19世紀の普通の人らの盛り上がりとかの時代の雰囲気がかなり上手に描かれていた。この作品では呼吸法が波紋っていうのに利用されてるんだけど、明治大正の呼吸法がメチャ極端になったみたいな描写で、概ね正しい認識だと思う。すごい。

明治大正時代の呼吸法も、マスターすると加齢に抵抗できるし火も熱くない。ものすごい効果があるけど、難しいからほとんどの人が挫折してしまう。この問題を解決するためメチャ苦悩し、ある道具をひとつ用意すれば誰でも簡単に実行できる最高の呼吸法「吾輩の心身頑強法」を開発したのが黒田清という人である。

「吾輩の心身頑強法」っていうネーミングセンスが最高すぎて絶対に実行したくなるが、黒田は健康になりすぎてとにかくテンションが高い。

黒田さんの勢いすごすぎてやる気なくす人もいると思うけど、私は嫌いではないです。

「吾輩の心身頑強法」は300ページくらいある本だが「吾輩の心身頑強法」の解説は28ページくらいしかない。そのくらいシンプルな方法である。あとは自分の生い立ちとか経営している会社の自慢とか健康法を実行した偉人たちの実例なんかが書かれている。とにかく読者を盛り上げて自分の健康法を実行させようという戦略である。なぜ実行させなくてはならないのかというと、健康法を実行したら人間の寿命が延びる。

そして国が強くなる。

だからやれ全員が実行しろッみたいな感じで黒田の勢いはすごいんだけど、「吾輩の心身頑強法」自体は、ものすごくシンプルな方法で、やってみると確かに実行することができるというわけで、具体的な方法を解説していこう。

まず重要なのは、細く長く呼吸することである。先にも書いたように、鼻で15秒吸って15秒はく。そして吸うよりも多く息を出すようなイメージで呼吸する。全身は脱力状態、腹のみ力を入れる。吸えば吸うほど腹に力が入るようなイメージで呼吸する。以上が呼吸法の基本である。

これを実行するため、どうすれば良いのかというと、まず腕時計を購入する。

これ懐中時計じゃねぇかって思ったかもしれないけど、細かいことを気にしてたら古い本とか読めないんでムシる。あと懐中時計の場合は腕に紐でくくりつけろとか粗雑なアドバイスも書かれているのでセーフだと思う。

まあ時計の種類とかなんでもいいから、工夫をして腕に時計をくっつける。理想の腕時計姿はこういう感じ。

写真の人は黒田清さんなんだけど、そんなことはどうでもいい。時計を腕につけたら12時を起点として呼吸を開始、15秒吸ったかなって思ったところで秒針をチラっと見る。

15秒経過していたら息をはく。再び時計を見て、15秒をすぎていたら吸う。これを繰り返す。初心者はチラっと見すぎると疲れるので注意。

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散々煽りたてておいてこんな方法かよって思ってしまうんだけど、やってみると確かにできないこともない。ただ人に変に思われてしまうかもしれないからチラっと見るのが重要である。

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それで私が実際に「吾輩の心身頑強法」を実行しているのかっていうと、していない。なぜなら面倒くさいからである。しかしそういう人間に対しても黒田さんは健康法を用意している。

まとめると以下のような感じです。

  • 就寝時に時計の音が聞こえる環境を作る
  • 時計の音を聞きながら鼻で15秒吸って15秒はく
  • あまり腹に力はいれなくてもいい

この方法はたまに実行しているんだけど、なんか血の流れがすごい良くなる気がする。健康になるかどうかは知らないけど、とにかく身体に変化ある。時計の音なくてもいいから鼻で15秒吸って15秒はくみたいなの続けると面白いかもしれない。

黒田さんは、最初っから最後まで勢いがすごいし男らしい。

しかし時計は人に気を使ってチラっと見るってのが最高だと思う。

最高にめんどうくさくない健康法

大正時代の様々な健康法を紹介してきたけど、結局のところなにかしないといけない。怠惰な人間は実行するの無理だと思う。まして金やら時間やら技術が必要な健康法だと、疲れる上に金減るからさっさと風呂に入って寝たほうがいいわみたいになる。この様にいくら良い健康法があったとしても、実行できないなら意味がないという問題がある。しかし安心していただきたい。この問題を解決するために開発された最高の健康法が存在する。

とにかく面倒な話は抜きの健康法で、その名も『医者いらず薬いらず 無病強健精力絶倫法』である。

考案者は大浜忠三郎、いかにも健康そうな外見してる。

この人は事業家として有名なんだけど、健康のことを考えすぎて保険会社を作ってしまった程の男である。

そういう人だから健康法の開発もかなり本格的で、20年間自分と部下の身体で実験している。その結果から絶対に健康になれるという確信を得たのと、みんなが健康になって死ぬ奴がいなくなると保険代を払わずに済むというわけで、『医者いらず薬いらず 無病強健精力絶倫法』を広く社会に広めることを決意したのであった。

この健康法は、本当に誰でもできる。私もやっている。効果としては歩行とかできるし、財布から金出してビールを買ったりするといった健康体で実に普通である。

というわけでみんなも実行したくなったと思うので『医者いらず薬いらず 無病強健精力絶倫法』を具体的に解説していくと、まず人間は今すぐ死ぬことができる。

死にたいって思ったら死ねるのに生きてるということは、生きようと思ってるから生きてるということになる。これが『医者いらず薬いらず 無病強健精力絶倫法』の根本原理で、ととにかく病気とかムシったらよろしい。

みんな分かってくれたかな?もしかしたら理解できない人もいるかもしれない。心配だからさらに詳しい解説も掲載するけど、大浜さんの解説はとにかくクドいという特徴がある。

ここまで解説されたら、流石に病気とかムシったらokという理屈が了解できたと思う。で、人間は今すぐ死のうと思ったら死ねるんだから、健康だと思ったら健康になる。よく分からない人もいるかもしれないので、もう少し詳しく解説すると、まず歩行していて右に行こうと思ったら右に進む。右に進んでいる途中でやっぱ左に行くわって思ったら左に進む。だから健康だと思ったらその時点で健康であるっていうことなんだけど、この人の解説はとにかくクドくて最高だと思う。

俺は面白いから読むけど常人では読むの厳しいと思われる。とにかく小面倒な理屈抜きって宣言してたのに、小面倒な理屈しか書いてないのも最高であり、全てが最高の書物である。

この他にも常に緊張してると良いとか色々あるんだけど、とにかく死のうと思ったら今すぐ死ねるのに生きてて、右に行こうと思ったら右に進むんだから健康になったと思ったら健康なんだよゴチャゴチャ抜かすな馬鹿野郎っていうのが、『医者いらず薬いらず 無病強健精力絶倫法』である。

『医者いらず薬いらず 無病強健精力絶倫法』はなにもせずに生きてる時点で実行しているっていうことになる。だから私もずっと続けてるけど、至極普通なので健康に絶大なる効果ある気がしないでもない。

ちなみにこの本を出した一年後に、大浜さんは死去している。なんとも余情に満ち満ちた健康法で、私はとても好きです。

良い健康法が産れる時

私は明治が好きなんだけど、今回紹介した健康法は大正時代のものばかりである。実はある程度まで医療が発達しないと、良い健康法も出現してこない。

明治のある時期までは、病院を知らない奴も存在している。僻地には病院自体がなかったりもする。だから娯楽作品なんかに病院が出くる場合には『今では病院というものがございまして、病院に行きますればお医者さんが診察をしてくれて、お薬をくだされる。それで病気は治ってしまいます』的な解説が出てくる。今だと病院知らない奴とかいたらヤバいけど、昔は病院なんか知らんみたいな人らが存在していて、文化レベルの低い娯楽作品だと解説をする必要があった。

全体的に医療のレベルが低いわけだから、あんまり良い健康法も出てこない。普通のものばかりである。江戸時代だと養生訓っていう健康法がメジャーで面白いけど、わりと普通でイカれた雰囲気はない。

養生訓・和俗童子訓 (岩波文庫)

養生訓・和俗童子訓 (岩波文庫)

科学的な治療が存在するから非科学的な気合治療が輝きはじめるのであって、医者もヤマカンで治療している時代ならば健康法もクソもないっていう雰囲気である。

医療制度が十分に普及しないと、イカれた健康法は出てこないってのは、わりと重要なポイントで、医療が発達するとアンチ医療の良い健康法が出てくる。今でも予防接種ワクチン反対人間みたいな奴らいるけど、これも予防接種が十分に普及したからこそ発生する状況である。予防接種を受けられなくて人がバタバタ死んでる地域で予防接種反対ッ!!昔の人はワクチンなくても健康だったッ!!!!みたいなデモする馬鹿いないと思う。

衛生っていう概念が流通したからこそ、アンチ衛生が輝き出す。金儲け主義の複雑な呼吸法が流行したからこそ、最高にシンプルにした合理的な方法も出現する。実現不可能な健康法をブチのめすため、生きてるだけで実行可能な健康法が開発される。こういう状況が良いことなのか悪いことなのか、判断するのはとても難しい。ただ人類が新しい技術を受容する際に、こういった動きはわりと起きる。

起きるものは仕方ないから、受け入れるしかない。その上で、過去の事例を知っておくと、人間が今なぜそんな行動をしてるのかって考える時に、わりと役立つ場合がある。頭の片隅にでも置いておくと便利な気がしないでもない。