山下泰平の趣味の方法

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終戦直後(1945-46年)NDC分類(日本十進分類法)構成の偏り分析

終戦直後(1945-46年)NDC分類構成の偏りを分析した

NDC は三桁の数字の組み合わせで図書を分類する方法、図書館の本の背表紙のシールに貼ってあるあれである。

国立国会図書館デジタルコレクションから取得した終戦直後(1945年6月〜1946年9月)の出版物3,564件(プランゲ文庫は除く)と、全期間の出版物1,580,026件のNDC分類構成比を比較した。

終戦直後の構成比を、全体の構成比で割り「倍率」を出す。1.0を超えれば終戦直後に相対的に多く、下回れば少ない。これで終戦直後に何が多く出版され、何が出版されなかったかが分かる。

自分は今、1945-46年の出版物6,037件の前書きと後書きを全部読んでいる。半分まで読みつかんだ感触を数字で検証したくなり、この分析を試みた。

手順

dl.ndl.go.jp

  1. 検索結果から AI を使ってデータを抽出
  2. データセットをAIで分析
  3. 分析結果を精査し私の調査結果とすり合わせる

当時の雰囲気

過去を数字だけで判断すると誤る。だから当時の雰囲気を共有しておく。

まず新しい国の確立に役立つものを、優先的に出版すべきだという風潮があった。

この時節に、のんびり釣などをと、叱る人があるかもしれませんが、それはとんでもない考へ違ひです。

四季の釣 益田, 甫 右文社 昭和二一(一九四六)年 1946 https://dl.ndl.go.jp/pid/1125914/1/7

之が研究及実践こそ現時局下に在る吾人の急務ではなくてはならない。

公民とは : 英和對譯 藤森清一朗 著 公民教本社 昭和二一(一九四六)年 1946 https://dl.ndl.go.jp/pid/11177473/1/13

なぜ優先順位があるのか、印刷所が被害を受けていたからだ。

本書中に収むべぎ多数の挿図は、さきに印刷所罹災の為、その製版を焼失したれば、己むを得ず之を省略せり。他日再版の際補ふことあるべし。

支那文学概論 上篇 塩谷, 温, 1878-1962 弘道館 昭和二一(一九四六)年 1946 https://dl.ndl.go.jp/pid/1150812/1/6

本書の執筆は昭和十九年初夏に始まり幾度か中絶して漸く昨年二月に一応の完結を見たのである。

しかし出版元、印刷所の焼失、校正の離散により筆者は本書の出版を殆んど諦めてゐたのであつた筆者が生存中に本書を公刊し得たのは寧ろ奇蹟に近い。宿命的に生れ出た本書が多少なりとも学界に寄与する事が出来れば幸である。

財政統計 汐見, 三郎, 1895-1962 第一出版 昭和二一(一九四六)年 1946 https://dl.ndl.go.jp/pid/1276603/1/4

図版を含む複雑な印刷も難しかったようで、手書きの数学参考書が多く残っている。

民主主義と選挙、科学立国への異常な期待、未来を子供に託そうとする姿勢、そして書籍を書くような社会的地位にある人々は、案外暗くはない……などなども頭の片隅に置いておこう。

大分類(1桁NDC)の構成比

グラフ

NDC 分類名 終戦直後 構成比 全体 構成比 倍率
0 総記 55 1.5% 46,725 3.0% 0.52
1 哲学 252 7.1% 102,704 6.5% 1.09
2 歴史 236 6.6% 193,900 12.3% 0.54
3 社会科学 823 23.1% 447,174 28.3% 0.82
4 自然科学 445 12.5% 118,360 7.5% 1.67
5 技術 321 9.0% 153,808 9.7% 0.93
6 産業 227 6.4% 164,753 10.4% 0.61
7 芸術 146 4.1% 106,900 6.8% 0.61
8 言語 62 1.7% 30,878 2.0% 0.89
9 文学 997 28.0% 214,824 13.6% 2.06
合計 3,564 100% 1,580,026 100%

文学(倍率2.06)と自然科学(倍率1.67)が突出。

歴史(0.54)、産業(0.61)、芸術(0.61)が沈む。

終戦直後に構成比が高い分類(2桁NDC、倍率上位)

97〜99類はデータの版違いにより全体側に対応コードがなく、見かけ上の異常値であるため除外した(後述「データの留意点」参照)。

NDC 分類名 終戦直後 全体 倍率
88 ロシア語・その他のスラブ諸語 7 371 8.36
85 フランス語・プロバンス語 10 568 7.81
25 北アメリカ史 10 650 6.82
13 西洋哲学 64 4,638 6.12
94 ドイツ文学 46 3,930 5.19
95 フランス文学 57 6,462 3.91
43 化学 42 5,410 3.44
42 物理学 52 7,134 3.23
41 数学 81 12,961 2.77
45 地球科学 56 10,526 2.36
54 電気工学 108 21,210 2.26
91 日本文学 753 170,969 1.95

終戦直後に構成比が低い分類(2桁NDC、倍率下位)

NDC 分類名 終戦直後 全体 倍率
02 図書・書誌学 5 13,126 0.17
39 国防・軍事 7 12,078 0.26
67 商業 27 41,244 0.29
18 仏教 24 32,693 0.33
78 スポーツ・体育 10 13,461 0.33
21 日本史 68 90,081 0.33
29 地理・地誌・紀行 32 40,477 0.35
37 教育 95 103,188 0.41
34 財政 20 20,767 0.43
38 風俗習慣・民俗学 16 16,387 0.43
17 神道 6 6,087 0.44
14 心理学 9 9,132 0.44

主要分野の内部構造

理系分野:「実学」への集中

数学・物理学・化学いずれも基礎理論や体系的な学問書ではなく、計算技法や実験手法など復興に直結する実用的分野に偏っている。

NDC 分類名 終戦直後 全体 倍率
413 解析学 27 1,486 8.06
432 実験化学 6 319 8.34
435 無機化学 6 336 7.92
437 有機化学 8 680 5.22
421 理論物理学 11 1,023 4.77
431 物理化学・理論化学 12 1,153 4.61
418 計算法 12 1,152 4.62
541 電気回路・計測・材料 15 1,670 3.98
548 情報工学 27 3,249 3.68

一方、代数学(411、倍率0.55)のように直接的な応用が見えにくい分野は低調。

敗戦は「科学技術の敗北」と捉えられており、実用的な理工系教育を急いだ空気が表れている……というのがAIの分析だ。事実、算盤の問題集などをちょくちょくみる。こちらは短く、実用的、印刷も簡単ということなのだろう。

もうひとつ、みもふたもない事実を書いてしまうと、受験科目かどうかが大いに関係している。敗戦しても受験はある。受験をするような裕福な家庭の子供は小遣いをもらえる。だから本も売れる……ということなのだろう。

日本文学(91類):詩歌と随筆の比重

NDC 分類名 終戦直後 全体 倍率
914 評論・エッセイ・随筆 105 10,683 4.36
913 小説・物語 342 63,891 2.37
912 戯曲 23 4,797 2.13
911 詩歌 208 55,456 1.66
915 日記・書簡・紀行 19 5,864 1.44
916 記録・手記・ルポルタージュ 2 5,397 0.16

日本文学753件の内訳は、小説・物語342件、詩歌208件、評論・エッセイ105件の順。

評論・エッセイの倍率4.36が最も高い。これは世相によるところが大きかったようだ。

これまで日本では主として長篇が迎へられたやうであるが、今後は、現実の世相から推して短篇が喜ばれるやうな気もする。といふのは、敗戦後の経済復興新生日本の建設、民主化運動といふ大きな国家的乃至国民的事業が、目もあやに渦巻く旋風の中にあつて、民衆はゆつくり落着いて長篇などを味はつてゐる暇はなささうに思はれる

恋の凱歌 : 露西亜短篇傑作集 他四篇 昇, 曙夢, 1878-1958 大虚堂書房 昭和二一(一九四六)年 1946 https://dl.ndl.go.jp/pid/1136984/

物資不足で、ページ数の少ない本しか出せなかった物理的制約もあったことだろう。そしてこれは仮説、短歌・和歌などは各地に結社が存在していたため、被害が少なく地方の素封家からの援助を受けることができ、出版できたということもあったのかもしれない。

記録・ルポルタージュ(916)の倍率0.16が極端に低いのは特徴的だ。

  • 戦争体験を客観的に記録・検証する動きが終戦直後には現れにくかった
  • 戦争被害の記録は検閲で通りにくかった

などの要因が考えられよう。

余談だが文学者には無神経、無反省な人間がわりといた。

国民九〇%を除いた残余の一〇%は逸早く「敗戦」の「事実」を確認して「その後に来るもの」を正しく予想してゐた。醜き周章狼狽もしなかつた。「来るべきもの」の法に到来せるを知つたのである。「神風」の吹かなかつたことを少しも不思議と考へなかつたのである。その一〇%とは何者か。

幣原首相も或はワンオブゼムだつたかも知れない。

だが……その一〇%とは、余人に非ず、文化人であつたのだ。文化人のなかでも特に文学者であつたのだ。「便乗」や「お茶坊主」の輩は論外ながら、尠くとも、書斎人たる文学者。それから科学者。更に極めて少数の宗教家。これ等がこの一〇%のなかに含まれてゐた国民ではなかつたか。

思ふ。その理由とするところを、一言にして云ふならば、彼等は由来「真理の使徒」であり、王者や権力に頭を垂れるを欲しないからである。然のみならず書斎人はその字の示すが如く読書を以む。日本歴史にも通暁してゐたであらうが、同時に、世界文化史、世界人類史にも尠からざる興味を持つてゐた。

人生談義 武野, 藤介, 1899-1966 洋々社 昭和二一(一九四六)年 1946 https://dl.ndl.go.jp/pid/1135497/1/4

武野はそれなりの変人で、本人は「「真理の使徒」であり、王者や権力に頭を垂れるを欲しない」かもしれないが、一般的な観点からすると酷い感想だといえよう。すでにいかにポジションを取るのか、競争が始まっていた影響もみられなくもない。

ちなみに武者小路実篤や志賀直哉などは、戦時中の自分の行動に一切言及せず、作品集のようなものを出している。

欧米文学の翻訳:ロシア・フランス・ドイツ

NDC 分類名 終戦直後 全体 倍率
98 ロシア・ソビエト文学 47 0※
95 フランス文学 57 6,462 3.91
94 ドイツ文学 46 3,930 5.19
93 英米文学 56 15,875 1.56
92 中国文学 15 5,673 1.17

※全体側にコードなし(後述のデータ留意点参照)

ロシア・ソビエト文学47件の存在感は際立つ。占領下でソ連への関心が高まっていた時代だった。もともと人気があったトルストイの再評価などもあった。さらに共産主義への期待というものもあった。中国、ロシアを賞賛する書籍も目立つ。

社会科学(3類):新体制構築 vs 実務の低迷

NDC 分類名 終戦直後 全体 倍率
313 国家の形態・政治体制 25 742 14.94
309 社会思想 13 1,005 5.73
329 国際法 24 2,800 3.80
323 憲法 40 4,837 3.67
311 政治学・政治思想 16 2,015 3.52
36 社会 216 68,776 1.39
37 教育 95 103,188 0.41
335 企業・経営 13 19,218 0.30
67 商業 27 41,244 0.29

国家体制・憲法・国際法・社会思想など新体制の根幹に関わる分野が増える一方で、企業経営や商業の実務書は激減している。

教育(倍率0.41)は教科書の根本的書き換えが進行中で新刊が出しにくかったこと、戦時中に明白に誤った教育がなされていたことも反映しているのだろう。

農業系:食糧直結型のみ突出

NDC 分類名 終戦直後 全体 倍率
626 蔬菜園芸 14 1,185 5.24
616 食用作物 18 2,313 3.45
614 農業工学 11 2,745 1.78
613 農業基礎学 7 1,998 1.55
615 作物栽培 5 2,640 0.84
611 農業経済・行政 30 20,124 0.66
610 農業(総記) 16 11,878 0.60

農業全体(61)の倍率は0.87でやや低いが、食用作物(616、倍率3.45)と蔬菜園芸(626、倍率5.24)だけが突出している。「何をどう植えれば食えるか」としての実用書が出版された。

地震学(453):倍率19.59の異常値

NDC 分類名 終戦直後 全体 倍率
453 地震学 49 1,109 19.59
451 気象学 4 4,694 0.38

地球科学のなかで地震学だけが異常な倍率を示す。『1944年12月の東南海地震、1945年1月の三河地震と巨大地震が連続した時期であったことが関係している』というのがAIの分析、実際どうなのかというと東京帝国大学地震研究所が「東京帝国大学地震研究所彙報」を淡々と出し続けていたため、見掛け上の数字が異常になっている。出版点数が少ないため起きた珍事だといえる。

沈んだ分野の構造

NDC 分類名 終戦直後 全体 倍率 背景
21 日本史 68 90,081 0.33 皇国史観の崩壊
17 神道 6 6,087 0.44 国家神道の解体
18 仏教 24 32,693 0.33 戦時動員への加担の影
39 国防・軍事 7 12,078 0.26 非軍事化政策
37 教育 95 103,188 0.41 教育への批判的視線
29 地理・紀行 32 40,477 0.35 旅行の事実上の不可能
78 スポーツ 10 13,461 0.33 余暇の喪失

国体イデオロギーと結びついた日本史・神道・仏教・国防といった分野が一斉に萎縮している。これらはGHQの指令による出版制限だけでなく、著者・出版社側の自主規制と、読者の関心の転換が重なった結果と考えられる。

スポーツに関しては余裕のなさに加え、食糧の不足もあったと考えられる。戦前からスポーツは、体位向上と結び付けられてきたため、食糧もないのに体位もなにもないよといった気分が漂っていたのだろう。

参考書・学習書関連と思われるNDC分類(終戦直後 1945-46)

感覚的なものだが、参考書をとてもよくみる。そこで全体3,564件中、理系の実用的な学習書・参考書に相当する分類を抽出した。

数学(41類) 計81件 倍率2.77

NDC 分類名 終戦直後 全体 倍率
410 数学(総記) 21 3,799 2.45
411 代数学 2 1,610 0.55
412 数論(整数論) 6 1,223 2.17
413 解析学 27 1,486 8.06
414 幾何学 7 1,216 2.55
415 位相数学 3 166 8.01
417 確率論・数理統計学 2 519 1.71
418 計算法 12 1,152 4.62
419 和算・中国算法 2 1,712 0.52

プランゲ文庫が入っていないため数が少ない。なので参考程度にしかならないデータということを前提にしてもらいたい。

解析学27件(倍率8.06)・計算法12件(4.62)に対して代数学2件(0.55)・和算2件(0.52)。数学科の学生が体系的に学ぶためではなく、工学や物理に進む人間が「道具として微積分を使えるようになる」ための本が集中的に出ているのだろう。

終戦直後、複雑な図形を伴う書籍は、手書きのガリ版等で出版されていた。(多くはプランゲ文庫に収録) 急ぎで出版したため、不十分なところが多いとする書籍も多い。

戦敗国の現状では、活字の撰択、附図の挿入をはじめ種々意にまかせぬことも多く、出来るだけ注意はしたが急いだので多少の誤植もまぬがれぬことゝ思ふ。此の点は何卒御諒承願ひたい。

臨床眼科学提要 中島, 実 倉知, 与志, 1905-1982 吐鳳堂 昭和二一(一九四六)年 1946 https://dl.ndl.go.jp/pid/1046601/1/4

それでも出さねばならない……といった情熱と善意として受け取ることができる。

物理学(42類) 計52件 倍率3.23

NDC 分類名 終戦直後 全体 倍率
420 物理学(総記) 15 2,190 3.04
421 理論物理学 11 1,023 4.77
423 力学 4 405 4.38
424 振動学・音響学 4 117 15.16
427 電磁気学 7 1,168 2.66
429 原子物理学 6 1,222 2.18

物理学も同様で、総記15件・理論物理11件・電磁気学7件と、電気工学(108件)への橋渡しになる分野に偏っている。

化学(43類) 計42件 倍率3.44

NDC 分類名 終戦直後 全体 倍率
431 物理化学・理論化学 12 1,153 4.61
432 実験化学 6 319 8.34
433 分析化学 6 835 3.19
435 無機化学 6 336 7.92
437 有機化学 8 680 5.22

化学も実験化学(倍率8.34)・無機化学(7.92)と手を動かす系が高い。

電気工学(54類) 計108件 倍率2.26

NDC 分類名 終戦直後 全体 倍率
540 電気工学(総記) 43 6,159 3.10
541 電気回路・計測・材料 15 1,670 3.98
542 電気機器 7 1,082 2.87
544 送電・変電・配電 6 948 2.81
548 情報工学 27 3,249 3.68

電気工学が108件で全分野中トップクラス、電力インフラの復旧は最も即座に人手が必要だった分野の一つ。

語学

NDC 分類名 終戦直後 全体 倍率
83 英語 14 7,291 0.85
84 ドイツ語 2 1,323 0.67
85 フランス語 10 568 7.81
88 ロシア語 7 371 8.36

語学の偏りがこの文脈で読める。英語14件(倍率0.85)はかなり低い。占領軍の言語なのだから、参考書需要がありそうなものだが不思議な点だ。日常会話レベルの小冊子や、パンフレット類が多く出回っていたのだろうか、あるいは戦時中も完全には途絶えていなかったため、反動増が起きにくかった可能性も。

一方でフランス語10件(7.81)・ロシア語7件(8.36)が異常に高い。これは実用的な語学学習というよりも、戦時中に禁じられていた敵性語の文献を読むための知識欲、あるいはソ連の社会主義体制への知的関心の反映だろう。

参考書まとめ

全体として、参考書分野のデータが語っているのは「制度が機能していない時代に、個人が独力で生き延びるための知識を求めた」という構図。学校が教えてくれないから自分で学ぶ、国家が方向を示さないから自分で技術を身につける。学校教育の教科書というよりも、復員してきた元軍人や、戦時中に学業を中断された若者が、独学で技術者になるための実用書市場だったのではないか……というのがAIと私の分析。

その一方で進学を目指す学生向けの塾は再開され、参考書も多く出ていた。このあたりはよく分からない。

明確なのは、子供への期待の大きさだ。

この本は、冬の終から冬の初までのあひだに、月々、庭や野外の植物で、くわんさつしたり、じつけんしたりすることの一部を、月の順に書き集めたものです。私が一々自分で行つたくわんさつとじつけんをもとにして説明してありますが、とくにくわんさつとじつけんの方法は、皆さんができるやうに工夫し、誰でもできるやうに、けんびきやうはもちろん、虫めがねも、なるべく使はぬことにしました。 このやうにして理科を学ぶならば、理科のきらひな人も、きつと好きになるだらうと思ひます。皆さんが一人残らず理科が好きになれば、これからの日本人は全部、頭が科学的になります。それでこそ、日本はほんたうの文明国となつて、世界の文明国の仲間入りができるのです。何と嬉しいではありませんか。 植物十二ヶ月 : くわんさつ・じっけん 原田三夫 財団法人子供の国 昭和二一(一九四六)年 1946 https://dl.ndl.go.jp/pid/8372377/1/2

残念ながら「これからの日本人は全部、頭が科学的」はならなかった。しかしそこには、参考書が不足している子供のため、なにかできることはないのかという純粋な気持が確かにあった。

データの留意点

本分析で使用した2つのデータセットには差異がある。代表的なものは下記の通り。

NDC版の違い。 ロシア・ソビエト文学(98)、イタリア文学(97)、その他の諸言語文学(99)が全体データに存在しない。全体側の文学(9類)では1桁合計214,824に対して2桁の合計が209,853で、差分の約5,000件がこれらの分類に相当すると推定される。NDC改訂に伴う分類体系の組み替え(96以下への統合等)か、ファセット検索の仕様差が原因と思われる。したがって、97〜99類の倍率は比較対象がなく無効である。

名称の表記揺れ。 終戦直後データは中黒「・」区切り(例:「風俗習慣・民俗学・民族学」)、全体データは読点「、」区切り(例:「風俗習慣、民俗学、民族学」)で、NDLのAPIまたはファセットのバージョンが異なる時点で取得されたデータであることを示している。

プランゲ文庫 除かれているのは実に惜しい。

この分析の問題点

1. 比較対象の非対称性

1945〜46年の「1年半」と「全期間(158万件)」で比較している。「全期間」には、戦後の高度経済成長期以降に爆発的に増大した分野(情報工学などの新しい技術、現代小説、サブカルチャー関連など)が含まれる。そのため「当時のニーズ」ではなく「現代の出版構造との差」を測っている可能性がある。

2. 「需要」と「供給制限」

当時は紙不足であり、出版は政府やGHQ(CIE:民間情報教育局)による用紙割当制度の下にあった。「科学的思考の啓蒙」「民主主義国の文学(翻訳)」はGHQの占領政策に合致したため紙が優先的に割り当てられ、国体思想や武道には紙が降りない。倍率の偏りは権力側の「出版統制」の結果である可能性がある。

3.生存バイアス プランゲ文庫が除外されているため、抽出された3,564件は「正規の納本ルートを辿った本」や「後年になってNDLが収集できた本」に偏っている。またカストリ雑誌、粗悪なパンフレット、地下出版物などのゲリラ的な出版物の多くがデータから抜け落ちている可能性が高い。

結論

私は今、国立国会図書館デジタルコレクションに収録されている1945/06/01-1946/09/30に出版された出版物の検索結果 6,037 件の前書きと後書きを全部読もうとしている。おそらく敗戦から一年は、こういう感じだったのかなということが分かってきたが、客観的なデータを使い、それが正しいかどうか確かめたくなった。そこでNDC分類(日本十進分類法)構成の偏りを分析することにした。私の「こういう感じなのではないか」は概ね合っていると思うというのが現状での結論だ。