山下泰平の趣味の方法

これは趣味について考えるブログです

私はこういう人です

強すぎるプレッシャーは人を駄目にする

多少のプレッシャーは良い影響があるかもしれないけど、強すぎるプレッシャーは人を駄目にする。そんなことは誰だって知っている。知らなくても常識で考えれば分かると思う。だからこれでこの話は終りですといいたいところだが、世の中にはどんなに当り前の事柄であったとしてもケチをつけたがる人間が存在していて「俺はプレッシャーがあればあるほど力を出せる」だの「強いプレッシャー跳ね返して成功している奴もいるだろ」などといったゴミカス以下の意見?みたいなことをホザく。仮にそのカスを小林童夢としておこう。小林童夢、ちょっと聞くと少年なのに巨人軍に入り魔球を投げそうな名前だが、その実態は卑屈なクズ野郎である。

そういう人間はみんなが指折り数え楽しみにしている東京オリンピックにも、『オリンピックが成功しようが失敗しようが興味がないからどうでもいい』などとスカした態度を示すことだと思う。それも良いだろう。私はそんなことでは怒らないし、色々な種類の人間がいたほうが良いと思っている。他人と反対の発言をして注目を浴びようとすることが小林童夢にできる精一杯の行動なのであれば、受け入れようじゃないかといいたいところだが、そうは思わない人間もいる。本年105歳を迎えることになる黒須田(くろすだ)久那糸(くないと)である。

黒須田久那糸、終戦直後の所有物はカラッカラになったペンペン草のみ(全裸)、そこから裸一貫で日本の権力を裏から牛耳る権力の化け物にまで登り詰めた男である。全てを手に入れた黒須田の唯一の楽しみは、4年に1度のオリンピックであった。そのオリンピックを小林ごとき塵芥があってなきがごとしといった態度で蔑ろにしている、その事実を知った黒須田は深い同情を小林に寄せるのであった。

「この青年、ゴミカス、塵芥、アメーバ野郎……、気の効いた発話をしているつもりだが周囲はレベルの低さに呆れ顔をしていることにすら気付くことが出来ない低脳、なんたる無能さ、なんたる糞虫、その小林が神聖なるオリンピックを汚した罪は許しがたいッ……が、しかし私は慈悲深い。このジメジメとした男が己れとは全く異なる輝かしいオリンピックに興味を持たなくなったのも当然、許そうじゃないかこの哀れな青年を。そして参加させてやろう素晴しいオリンピックに」

というわけで小林は4年先、東京オリンピックの開会式においてチグリス・ユーフラテス川の物真似を強要させられることとなる。なぜかハイエースが走ってることが多いな。おやおやこんなところにもハイエースかーなどと思っている時点で海外逃亡していれば良かったのだが、薄鈍(うすのろ)の童夢・小林は黒須田会によって真っ白な部屋に監禁され、チグリス・ユーフラテス川の物真似漬けの日々を送っている。物真似がギャラリーに受ければ解放されるが、失敗すると毒を食わされて絶対になにがあっても確実に死ぬ。ものすごいプレッシャーである。

しかし希望はないわけではないと小林は考える。黒須田は今年で105歳、4年以内に寿命で死ぬことを日々祈っているのだが、ペンペン草で日本を牛耳るような男であるから常人ではない。昨日のディナーも太平洋に自ら潜り、サメを踊り食いしたというくらいの健康優良児である。どう考えても成人病小林よりも寿命が残っている。

祈るだけではなく、小林も足らない頭で色々と考えはした。偶然にも着用していた防水透湿性素材ジャケットの特性を利用し、外部にいる人権派弁護士になんとか連絡をする(この辺りにスリリングな展開があったが面倒くさいので省略する)も、「お前がオリンピックに興味ないのが悪いんだろが当然の報いだ死に腐れ」といった至極真っ当な返答、人権派弁護士から黒須田側に連絡があり、小林を監視するため「でく」が投入されることとなってしまった。

でくとは黒須田会の拷問課取締役で、主食はカラアゲとプリンである。趣味は人体に痛みを与えること、特技は人体に痛みを与えること、職業は人体に痛みを与えることという完全体の狂人であり、全身脱毛済みで身長2m42cmの筋肉の塊、72歳になった今も100mを10.02秒で走ることが出来る驚異の身体能力を持っている。

そのでくが愛用のペンチを持ち、常に小林の周囲を歩いている。そんな小林にも朝がくる。サア、さわやかな朝がやってきたぞと思った瞬間、真っ白い壁とカラアゲをおかずにプリンを食うでくを見ながらチグリス・ユーフラテス川の物真似をする日々が始まる。チグリス・ユーフラテス川の物真似が全世界から押し寄せてくるギャラリーにウケれば生存可能、失敗すれば死、そのプレッシャーは計り知れない。あまりのプレッシャーから小林は脱走しようとするのだが、毎度のようにでくに捕えられ、尻の肉をペンチで引きちぎられてしまう。

普通の人間であれば尻の肉の一部が失なわれるとメチャ痛いが、幸いなことに小林は鈍感である。すごい痛いだけで特に問題はなく、小林は片目をつぶった半笑いである。あと普通は尻とか細胞?脂肪?よく知らねぇけど、とにかくそういうので出来てたりすると思うんだけど、小林の尻は甘い粘土のようなもので構成されているため、健康上の問題もなし、幾度も脱走を試みるうち尻の肉がなくなってきても、腹の肉(甘い粘土っぽい物質)を移植すればなんとかオリンピックまでは尻の肉をペンチで引きちぎり続けることが出来るだろうと、黒須田も一安心をしているところであった。それでも一応はでく愛用のペンチを小型のものにするという用心深さ、流石は日本を牛耳るドンである。

小林は尻の肉をペンチで引きちぎられると知りながら、なぜか何度も逃亡を試みる。もちろん当初は逃亡の可能性を信じていたのだが、今やそんな希望など持ってはいない。それでも小林は逃亡を試みる。尻をペンチでつねる瞬間、わずかに見せるでくの笑顔を見たいからである。いつしか小林は、でくを愛するようになっていたのであった。

小林の尻の肉はでくが食う。普通の人ならそんなことをするのは嫌だけど、でくはプリンとカラアゲをギリ区別できる程度の味覚と知能しか持ち合わせていないため問題はない。そもそもでくは、ペンペン草が成長して産まれた超生命体である。人体と構造が違う。だから小林の尻の肉でも成長できる。でくの一部となり、小林も心なしか嬉しそうである。

成長したでくは身長3mくらいあり、100mを9.1秒で走ることができるのだが、残念ながら植物だからオリンピックには出場できない。しかし小林がチっチっチチーーグリス・ユーフラテッース川! などといった馬鹿丸出しで絶叫する物真似練習風景を前にしつつ、夢にまで見た金メダル、もっとも身長5mの黒須田(ペンペン草(でく)の根っ子が成長して生み出された超生命体)が手作したダンボール製(非公式)ではあったものの、とにかく金メダルを授与してもらったことは、でく(ペンペン草だが38cm分は小林の甘い粘土尻肉)の人生で最高に幸せな瞬間だった。

そして黒須田久那糸にとっても、ペンペン草から最高のアスリートを作り上げるという夢がかなった瞬間であった。

黒須田とでく、交差することのなかった子供の頃の夢と夢……それは人生の途上で歪んでしまい、かっては暗く恐ろしいものになったこともあった。二人が子供の頃に見た夢をそのままの姿でつないだのは、他ならぬ小林童夢が持つ謎の尻肉であった。この圧倒的に感動的な場面に直面しては、流石の魯鈍小林も思わず知らず拍手喝采せざるを得ない。

小林はようやくオリンピックの素晴しさを知ることとなった。そして黒須田、でくの二人は小林への感謝で胸が一杯である。三者の心がようやく一つになった瞬間ではあるものの約束は約束だからな、いよいよ明日はオリンピックの開催日、必死の形相で関節をブラブラさせチっチっチチーーグリス・ユーフラテッース川!! と絶叫した後で観客の冷笑と罵声を聞きながら、小林は猛毒を飲み死ぬことになるわけだが、この様に並外れたプレッシャーは人をおかしくする。だから二度とプレッシャーは人を成長させるなんてことを言うもんじゃない。

プレッシャーから逃れたとしても安心は出来ない。我々の生命を様々なものが狙っている。意味の分からない長時間労働、周囲からもたらされる圧倒的ストレス、社会に狂わされたヤバい野郎ども、そんな諸々から又もやプレッシャーを受けるという悪循環がある。それではどうすれば良いのかって話になると思うんだけど、私は「尻」ません、というわけで新春企画三題噺、お題は「ペンペン草」「プレッシャー」「甘い粘土の尻肉」という難しいものでしたが、ここに新作人情噺「クロスダークナイト」が完成いたしましたといったところで新年明けまして読んでくれてサンキュー今年もヨロシクッ!