山下泰平の趣味の方法

これは趣味について考えるブログです

一〇〇年は十分に長い

文化でも芸術でもなんでもいいけど、歴史が浅いと馬鹿にされることが多い。別に馬鹿にしてるわけでもなくて、ずっと昔からあるこの習慣って、わりと最近できたんだぜっていう豆知識的なものもあるけど、どっちかっていうと古いのは偉いみたいなのがあると思う。

私は歴史を専門に勉強してるわけじゃない。だから歴史にはあんまり詳しくないというか、知識のバランスがおかしくて、普通の人より知らないことのほうが多いんだけど、それでもこの文化は新しいからダメッ!!!といった話は少し変に感じることがわりとあったりする。知識が曖昧な人が書いてる場合が多い。

例えば靖国神社は明治あたりに作られたもので、歴史が浅いから大したことないといったような話がある。だけど招魂社として設立されたのは一八六九(明治二)年だから、まあ十分に古い。まして明治大正昭和という激動の時代をくぐり抜けてきて、今も人気があるわけだから、普通に考えたら日本に根付いた良い神社だと結論を出すことができる。

ここで見誤りやすいのは、神社としては新しいという点だ。だけど文化としては十分に古い。純粋に文化として見ると、ケチ付ける要素はあんまりない。靖国神社は良いということでよろしい。

この他にもみんなで鍋を囲むといった料理は、イワタニのカセットコンロが発売されて普及したもので、日本の伝統料理じゃないというようなものもある。これについては微妙に嘘で、明治になる少し前、温かい料理が良いとされはじめた時期がある。日本の住宅は火に弱いから、火は始末しろみたいなのがあったんだけど、やっぱ暖かいほうが美味いじゃんみたいな風潮になった。

その辺りの時期に、家族と一緒に食卓に付けない女性たちが、温かい出来立ての料理を内緒で食べ初めた。これがみんなで鍋をつつく食事スタイルの始まりです。

その他、明治大正の書生は、座の真ん中に食物を置き、放談しながら豆やら芋を食うコンパという催しを開催していた。コンパについてはこちらに多少詳しく書いている。複数人で食事を囲む食事スタイルの起原を、ここに求めることもできるかもしれない。とにかく鍋料理に似た食事スタイルは、十分に古い。

伝統的な日本料理というのも、なんなのか分からないが、そんなものがあるとすると、恐らく冷たくて甘くない料理ということになるのだろう。だとしたら野菜などは、日本に住む人々の好みに合せ品種改良され甘くなってるため、すでに日本の伝統料理を再現するのはかなり困難になっている。好みに合わせ品種改良されてきた野菜で作れない料理が、日本の伝統料理なのかというとかなり怪しい。

それでもたかだか一〇〇年じゃないかとか言い出す人がいると思うけど、一〇〇年というのは十分に長い。

最後に先に紹介したコンパについて、これは海外から輸入された娯楽なのだが、すでに滅んでいる。気質や風土に合わないものは、時間に抗うことができず消えてしまう。もう一度書くが、一〇〇年というのは十分に長い。

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