山下泰平の趣味の方法

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国立国会図書館デジタルコレクションで調べるコツ

国立国会図書館デジタルコレクションで過去の文化を効率的に調べる方法はありますかと質問されたので書いてみました。

この記事ではバンカラを題材にして調べる方法を紹介します。

難しいことは書いてなくて、

  • まとめられている本があればそれを読む
  • 検索する単語を選ぶ
  • ヒット件数を増やしたり減らしたりする
  • 調べながら新たに検索できる単語を見付ける

くらいのことしか書いてありません。

既存の本を読む

当たり前の話で申し訳ないんだけど、すでに調べた人の本を読むのが効率が良い。バンカラなら、横田順彌さんのものが有名だと思う。

本の選び方については、「ちゃんと研究している人」か「その界隈では有名なコレクター」が書いたものを選ぶと失敗が少ない。研究もしてないしコレクターでもない私がいうのもなんなんだけど、今のところは妥当な判断だと思う。もちろんこれには例外もあるし、誰も信用できない分野なんかもある。しかしながら相当に入れ込んで調べてないと、情報の質が悪いと気付くこともないので、特に問題はないと思われる。質は悪いかもしれないが、自分よりはマシだろうといった判断だ。

調べる目的にもよりけりだが、大抵のことは他人が調べてくれたものを読めば事足りる。それで満足できないのであれば、自分で調べるっていう流れになる。

検索してみる

最初に書いておくと、ここからはパソコンを持ってないと厳しいと思う。スマホでやるのは厳しい。パソコンない人は頑張って手に入れて欲しい。

ここではバンカラを題材にしているのでバンカラについて調べていくわけだが、昔の言葉は現代と過去で表記が違うことがあるため、 Wikipedia で調べてみると、バンカラの他に「蛮殻」「蛮カラ」といった表記があることが分かる。この他にも「蛮襟」なんて表記もある。ハイカラが「高襟」だからバンカラは「蛮襟」なわけだけど、これはどうでもいい話で、続いてなにも考えずに国立国会図書館デジタルコレクションでバンカラを検索すると、4,528件ヒットする。

少し多すぎるので「蛮カラ」で検索すると 2,830 件となるが、バンカラについての知識がほぼない状態で、この中から必要なものを選ぶのは難しい。

そんなわけでオプションから全文検索を外すと 39 件中、ついでに"送信サービスで閲覧可能"を選択から外すと、検索結果は12 件になる。、これなら全部読めないこともない。

バンカラ自体を調べたい場合、12 件の検索結果の中だと『河岡潮風 (英男) 著『書生界名物男』,本郷書院,明44.7. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/886768』が役立つと思うが、なんの知識もない状態で選ぶのはかなり難しい。だから読んでいくしかない。

(近代の文化に限っては)時代はあまり関係ない

検索する際に年代で区切ったりしてますかと聞かれたので書いておくと、近代の文化に限ってはあんまり役に立たないと思う。

明治のバンカラは戦後には存在しないわけだが、思い出話として老人が語っていたり、明治のバンカラから派生した文化が存在していたりはする。昭和16年にこの認識だということは、大正時代にも似たものがあるはずなんていう状況もある。なので基本的には検索して出てきたら読むというのが正しい。

同じジャンルを百冊読むのは難しくない

情報処理が速いですみたいな人を見ると、ものすごい能力だと感じることがあるかもしれないが、基本的に大したことはしてない。情報量が多くなれば多くなるほど、その分野に関しては処理が早くなるので、すごく見えてるだけである。

バンカラ関連なら十冊くらい読むと書いてる奴や行動する奴のパターンが分かってくるので、書籍の八割くらいの部分は飛ばし読みをして、パターンと違う部分だけ読むという感じになる。これだと片手間で百冊くらい処理するのは難しくない。

これは考えてみると当たり前の話で、知らない土地に放り出されて室岡さん(完全な他人)の家にある勝海舟像を借りてこい言われたら難しいけど、普段の通勤通学路を移動するのにはそれほど苦労しない。知ってることは簡単っていう単純な話だ。

なのでなにかを調べようと思った場合、ひとつのジャンルの一部分に焦点を合せひたすらそればかり調べるのが効率が良いと思う。まんべんなく全体を調べるのは効率が悪い。

全文検索する

バンカラ関連の資料を読みまくり前提知識がついた後に、全文検索すると必要なものかどうかが分かるようになる。

この画像のうち読む必要があるのは『学界文壇時代之新人』のみ(『教育時言』は読んでもいいかなくらい)」になる。なぜならそれ以外は全て巻末にある書籍の広告だからだ。こういうことは、慣れると一瞬で分かるようになる。

体感的な話だが検索してヒットした中で見る必要があるものは1/5くらいで、2000ヒットしたとしても400程度になる。その中できちんと読む必要があるのが1/10くらい、つまり40冊読めばいいだけなので、できないことはないかなといったところであろう。

このように資料を読み混んでいくうちに、「蛮骨」や「大雄飛」などのバンカラ関連の専門用語を知ることとなる。それを検索し、あとは気が済むまで調べるといった流れになる。

周辺知識は必要だけど

国立国会図書館デジタルコレクションは素晴しいサービスなので、気楽に使うのが良いと思う。

実のところ、バンカラは難しい。バンカラが議論をするのは、基本的に彼らが武士の流れを持つからだ。だからバンカラの中には、自分達の行動が国家の浮沈に影響すると考えるものたちもいる。私立の専門学校に通うバンカラが野球などの応援をするのは、スポーツによる国民の体位向上や、不完全な官立学校を補うため私立の学校の地位を上げていくためでもある。もちろん騒いでるだけの奴が大多数なんだけど、真面目なバンカラもいるにはいたのである。旅するバンカラの心情を理解するためには当時の風景論を抑えておく必要があるし、旧制高校の教養主義についても触れておきたい。ただこんなこと知らずとも、バンカラについての記述を読み、楽しむことは十分にできる。バンカラ経由で明治の別の文化に興味を持つ人がいたら面白いと思う。