私は明治から大正あたりの変な文化を調べて遊んでいる人である。あくまで趣味で調べていて、専門的な教育を受けたわけではない。それでも調べたことを、それなりに評価してもらえてはいる。すごいッ!!! って感じではないけれど、一応ほどほどに詳しく調べている人だとしてもいいと思われる。
そういうそれなりの人として、若い時にやっておいて良かったなと思うことがいくつかある。それらは体系だった指針に基いた行動ではない。暇な時にちょっと気が向いたしなんとなくやってみるかな……というのを繰り返しているうちに、今の状態に落ち着いたといった感じで、要するに単なる偶然でしかない。それでもわりと効率の良い方法だったなと自分では思っている。
そんなわけで、私がやったことを一つの事例としてまとめておこくことにした。この文章は下のような人に向けて書いたものだ。
- 今なにかを調べている
- 学問的に訓練されているわけではない
- ちょっと停滞している
- より良く調べたり、まとめたりしたいと思っている
調べてることなんかないし、本も読まないけどなにかを調べたいって人は、本を読むことから始めるのが良いと思われる。読んでいるうちに、なにか調べたいことが見付かる可能性が高い上に、見付かった後で調べるための基盤を調える道具としても書物は使える。そんなわけで読書を始めるためのお勧め文章は次の二つである。
読まない人が読書で遊ぶための60ステップ - 山下泰平の趣味の方法
実に素晴しい読書入門なんだけど、これも私が書きました。ありがたいですね。
本を読むのも嫌な場合は、皿洗いのスポンジを選んだり、ラップの比較など、日常的に使用するものを比較検討すると良い。ちょっとしたことを調べたり比べたりするだけで、生活は十分楽しくなる。なのでなんでも調べたり比較したりするのを習慣にしておくと人生お得だと思われる。
一応書いておくと、あくまでこれは自己流のものでしかない。だから専門的に研究している人や、しようとしている人は、今やっているそれが正しくて良い方法なので、今のやり方を続けたら良いと思う。趣味で調べてるけど、今のやり方が好きって人も、そのまま突き進んだほうがいい。この文章は、あくまで私が個人的にやったことをまとめたものでしかない。
というわけで、前置きはおしまい、私が調べるためやっておいて良かったことを紹介していく。
データを蓄積する方法を知っておく
調べたことの全てを脳に収めるのは面倒くさい。だから調べたことを蓄積していく必要がある。
私の場合は高校生の頃に「知的生産の技術」で京大カードというものを知ったのだが、面倒クセーといった感想であった。そのうちコンピュータを使うようになって、これ使ったら誰でも情報を蓄積することができるのではと考えるようになった。考えはするんだけど、別に蓄積したい情報なんてないっていう状況が続くも、色々あって読書メモをとるようになり今に至ったといった雰囲気である。
読書メモなんて簡単なもののような気がするが、次のような条件を満たすものを作るのはなかなか難しい。
- 面倒くさくない
- パソコン、スマホなどどんな環境でも使える
- 数十年たっても使える
- 大量のデータから必要なものを抽出できる
そもそもこういう条件を考えたり、実現するためには知識が必要だ。だから次のような状態になっておいたほうが好ましい。
- コンピュータがだいたい使える
- 簡単なスクリプトが書ける
- データベースの基本的な部分を知っている
データベースの知識は、より良いメモを考えるのに必須である。とはいえそれほど高度なことを知る必要はなくて、リレーショナルがどうとかカード型がどうとかいう、概念だけ知っておけばいい。私だってそんなに詳しくない。
その知識を元にデータを蓄積する環境を作るために、コンピュータが使えるようになっておく。これも起動したり再起動したり、ファイルを高速で選べたりできて、ちょっとしたスクリプトを書けたら十分だと思う。私は awk や sed あとはシェルスクリプトくらいしか使っていない。
私の読書メモ環境がどういうものか、過去にまとめたことがあるので、こちらも参考までに紹介しておく。
電子書籍の読書環境の改善の記事:山下泰平のブロマガ - ブロマガ
昔に書いたものなので、今とかなり違っているが、基本的な考え方は同じだ。私は調べると蓄積すると書くとを一度にしたい。そんなわけで emacs 経由で私の書いた変なスクリプトや、人が作ったプログラムを動かしメモを取るという感じである。これは単なる好みの問題で、自分のための環境は自分で考えるしかない。今ならスマホのカメラの画像で、データベースを作ることもできるんじゃないかなと思うけど、私の目的と好みにはあんまり合わない。スマホ新世代の人ならば、そういう方法を考えるのも楽しいと思う。
根性でやれる人は根性でやっちゃってもいいけれど、仕事しながら調べたいなら、この辺りのことを抑えておいて、なるべく面倒くさくならないようにしておくと長続きするはずだ。ついでに仕事でコンピュータを使ってるのであれば、こういった知識や技術を使いさっさと仕事を終らせて、なにか調べるといったことも出来るので、やっておいて損はないかなというのが私の実感だ。
コンピュータが嫌いな人や、面倒くさい人はデータベースで検索して、適当に流し読みしておけばいいと思う。全然知らないと、微妙に知ってるの差は大きい。今はその辺りの紙にマジックで適当にメモしてるだけっていう状況であったとしても、知識の断片があればそのうち良いものにしようかなと思えるようになるかもしれない。
ちなみに「知的生産の技術」は昔の本で、今では通用しないような記述も多い。しかしこういった類いの書籍の古典ではある。だからこれ一冊読んで、知的生産系の類書を読むのは止めてしまうのも便利かもしれない。
- 作者:梅棹 忠夫
- 発売日: 1969/07/21
- メディア: 新書
科学的に考えられるようになっておく
科学的っていうと数式が並んでたりグラフが書いてあったり、ビーカーに薬が入ってる感じか? みたいに思う人がいるかもしれないけど、そうではない。事実にもとづいて体系的、合理的に考えることなんだけど、なんかよく分からないですね、実は私もあんまり分かってません。分からないなりに分かってるように考えられる理由は、ある時期にギリシャ哲学やら、デカルトやらスピノザあたりの西洋の古典を読んでいたからだと思われる。
随分と雑な分類だなって思われた方もいるかもしれないが、なぜ雑なのかと説明するとあんまり記憶に残ってないからである。よってお勧めの本を列挙することはできない。なんで記憶に残っていないのかというと、適当に読み飛ばしまくりだったからである。そんな読み方でも、一応は科学的に考えようかなと思える程度にはなれたので、真面目に読んだらもっと科学的な人になれるはずだ。お勧めの本が皆無というのもなんなので、無理矢理思い出してみたけど、このあたりだったっけかなーっていう雰囲気である。
- 作者:アリストテレス
- 発売日: 1971/11/16
- メディア: 文庫
- 作者:スピノザ
- 発売日: 1951/09/05
- メディア: 文庫
もうひとつ大事なことがあって、それはありとあらゆる状況で、科学的な態度でいるのは難しいと認識しておくことである。かなり高度な教育を受けた理系の研究者の方も、別の分野では非科学的になったりする。私もたまに自分の想像と違う資料が出てくると、読んでなかったことにするか……となりそうになるわけで、そもそもこの文章もあんまり科学的な方法では書かれていない。自分が知ってることは少しマシに考えられるけど、知らないことだと原始人程度にしか考えられないと認識しておくのが安全だろう。
古典ほど効率は良くないけれど、数ヶ月限定で特定ジャンルの学問の本をずっと読み続けたりするのも良い。同じジャンルを読み続けていると、最初は意味が分からないものの、ずっと読んでいるうち、そのジャンル限定でなんとなく理解でき早く読めるといった状態になれる。全ての学問は科学的に考える必要があるので、知らないうちに科学的な思考が身に付いてると思われる。私も社会学や記号論の本をずっと読み続けるみたいなことをしていた時期があって、楽しくてなかなか良かった。ただ難しくて疲れる上に、時間がかかるので暇な人しかできないかもしれない。
文化を調べたいのであれば、宗教書もちょっと読んでおいても面白い。聖書やら仏教関連の本から、新興宗教の経典などなんでもかんでも読んでいると、一定の共通する普遍的なものがあるような気がしてくると思う。でもこれはあくまで気分でしかなくて、厳密にいうと全く違うものなんだなーとかゴチャゴチャ考えてるのも、科学的に思考する訓練になる。あと聖書はめちゃ研究されているので、そういう本を読むのも面白い。
科学的に書けるようになもなっておく
科学的に書く能力も、身に付けておいたほうがいい。書けるということは、考えられるということだからである。
そのために、論文の書き方を知っておくと効率が良い。論文は科学的に書く必要があるため、その書き方を知っておけば、自然に科学的にも書けるようになる。論文なんて書くことねぇし、知る意味ねぇよって思った人もいるとかもしれないが、それでもだいたいでも書き方を知ってると、読んだり調べたりするのに役に立つ。
実は私は大学生の頃に論文を一回も書いたことがなくて、今後も面倒くさいから論文は書かないと思われるが、大昔に書き方だけは知っておこうと思いこの本で勉強した。
論文作法─調査・研究・執筆の技術と手順─ (教養諸学シリーズ)
- 作者:ウンベルト エーコ
- 発売日: 1991/02/25
- メディア: 単行本
なんで勉強しようと思ったのかは覚えてないんだけど、とにかくこの本に書いてあることを真似したり、こういう論文を書くために必要な資料はこういう感じで、こういう調査が必要だなと想像したりした。別に論文を書くわけでもないのに、現地にまで行って勝手に調査した気分になったりもして、わりと面白い経験だった。そしてその経験は、今でもとても役に立っている。書くことに対する影響はもちろんだけど、ここまではこの程度の労力で調べられるけどこれ以上はコスト的に合わないなだとか、妥当な判断が可能になったと思う。こういうことを大学生の頃にやったんだけど、高校生や中学生であった時期にやれてたらなぁとは思わないでもない。
ここで紹介した「論文作法」は古い本で、内容もちょっと難しい。作者の人が冗談が好きで、これマジで書いてるのか冗談なのかよく分からねぇよという箇所や、事例に出てくる事柄がイタリアのもので親しみにくいといった問題もある。今ならもっと良いものがあるかもしれないので、探してみるのも良いかもしれない。ついでにいうと良い論文の書き方の本を探すっていうのも、科学的に考えたり調査する訓練になるわけで、一挙両得といった感じである。
人が調べた本を読む
人が丁寧に調べて書いた本を読むのは良い。目的なしに読んでも、とににかく面白くて夢中になってしまうと思う。そしてそういった本を読んでおくと、自分がなにか書いてみようかなーっていう時の参考になる。書かなくても考えるのにも役に立つ。というわけで私が大昔に読んで良かった本をいくつか列挙しておくけど、価格が高騰しているので無理して読まなくてもいい。こういうのは好みなので、安くて良さそうな本を探して読んだほうがいいと思う。
- 作者:ユルゲン トールヴァルド
- 発売日: 2007/05/01
- メディア: 単行本
私が読んだ時は「外科医のあけぼの」っていうタイトルだったような気がする。昔の外科が雑でヤベーみたいな雰囲気で、今に生れてマジサンキューみたいになる。
馬車の歴史が書かれている。移動するための道具、特に車が好きな人なら面白く読めるはずだ。
電力の歴史が書かれている。歴史上、人類は大きな決断をいくつもしていて、そのひとつが丁寧に書かれていたような気がするが、私の記憶は曖昧である。
- 作者:ホイジンガ
- 発売日: 2018/11/21
- メディア: 文庫
- 作者:アルベルト マングェル
- 発売日: 2013/01/01
- メディア: 単行本
これも面白かった記憶があるんだけど、曖昧にしか覚えていないな。お前、全部の感想が曖昧じゃねぇかって思った人もいるかもしれないが、私の読書はいい加減なものである。それでも読み続けていると、必要なものは頭に残って少しだけ色々なことが考えられるようになる。そういうことを続けていると、脳の中で考えるための道具が増えるといった感じで、そんなもんでいいと思う。そういえば都市関連の本でメチャ面白いのあったんだけどタイトル分からんみたいなことも起きるけど、面白かったって事実は覚えてるし、それでいいかといった感じである。それで都市の本ですけど、なんかこの本だった記憶があるけど確信はない。
- 作者:ルイス・マンフォード
- 発売日: 1974/05/25
- メディア: 単行本
とにかくルイス・マンフォードって人の本だったと思われる。神話とかなんとかいうワードが出てきた気がするな。あと物を見る時にフレームがどうのこうのって本にも、多大な影響を受けているけど、こっちもタイトルが思い出せない。多大な影響を受けた本のタイトルを忘れてしまうというのは実に酷い話であるが、なにに影響を受けるのかは人それぞれなので、色々と読むのがいいと思われる。
ここで紹介したものが翻訳書ばっかりなのは、私がほぼ知らないジャンルのものばかりだからである。知らないジャンルを読む場合、自分では善し悪しを判断できない。だから「翻訳されている→そこそこの評価されている(そうでなければ、翻訳すらされない)」みたいに考える。この方法だと作者の名前を調べたり覚えなくて良いから、雑な読書をしたい時にはやってみるといいかもしれない。
並べ始めるときりがないからこのあたりで止めておくけど、こういうものを読み続けると、好きな調べ方や考え方が分かってくる。もしかすると新しい方法を、思い付くかもしれない。
しておいたら良かったなと思ってること
大威張りで色々と書いてきたが、実はもっと色々なことを学んでおいたら良かったと思っている。
- 英語
- 数学
- くずし字
- 義務教育で学ぶもろもろ
私は日本が近代になるかならないか辺りの時代に発生した文化が好きなので、そればっかり読んでいる。だから英語や数学なんて関係ないような気がするが、たまに使う。英語は文法だけはちゃんと勉強したので、英単語を300くらい覚えたら少しだけマシになった。これは実に素晴しい経験で、暗記をすると便利だと判明した。今後も色々と覚えていきたい。
考えてみると学生の頃は馬鹿馬鹿しくて小テストをムシってたけど、もうちょい真面目にしておいたら良かった。ただ教育は適応しすぎると人格やら思考の一部が破滅させられるみたいな印象も持っていて、なかなか難しいところではあるけれど、とはいえ真面目にしっかりと勉強してきた人は有利だと思っている。
思うところは様々であるが、今さら考えても仕方ないので、とりあえず英語と数学、義務教育で学ぶもろもろは気が向いたらチビチビ勉強している。ただし、自分が望む水準まで達するのは、ちょっと難しいかなといった雰囲気で、失なわれた時間は戻ってこないなーっていう感想である。くずし字も何度かチャレンジしたけどムズい。今は色々な学習教材があるので、そのうちまた勉強したい。
まとめ
長々と書いてきたが、要点をまとめると次の三点となる。
- 科学的に考え書く訓練をしておく
- 様々なツールを使えるようになっておく
- いい加減でいいので、メインの知識とは別に色々なことも知っておく
こうして並べると偉そうだけど、誰もがしていることなのかなとも思う。スマホにアプリを入れたり、趣味で遊んだり、冷蔵庫ドアの上に物を置くと落るなと判断したりできるのであれば、先に挙げた三点はクリアできている。
私が書いてきたのは、私がやってきたことなので、人によってはダルいって思うかもしれないけど、実際のところはそうでもない。学習や方法は、この水準にまで達してないと駄目みたいに考えがちだが、私はそうではないと思っている。自分がやりたいことを実現するために必要にして充分な量を持っていればそれでいい。私もこれらのことを、そんなに高い水準で習得しているわけでもなく、必要となった時にギリ乗り越えられるくらいのレベルでしかない。それでも不自由はしていないわけで、人生の送り方によって必要となる水準が違うという感じなのだと思う。
必要な量は人によって違う。自分に必要な量だけちょっとやってみるくらいの気持でやってみたら、誰でもできる感じなので気が向いたら試してみてください、といったところではあるが、やっぱり科学的に考えたりするのってヤヤこしくてダルいよな。古典とかブ厚い本を読むのもダルいしなにか軽くまとまっているものがあればいいのだが、ついでに過去の文化も程よく学べたりするといいけど、そんな都合のいい本があるわけないか……などと考えながら諦めムードで「明治にストレスフリー」で検索したところ、最高の本があったので紹介します。
電子書籍
簡易生活のすすめ 明治にストレスフリーな最高の生き方があった! (朝日新書)
- 作者:山下 泰平
- 発売日: 2020/02/13
- メディア: 新書
紙の本
簡易生活のすすめ / 山下 泰平【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア
簡易生活とは、明治時代に西洋から入り、明治・大正・昭和初期に、知識人や庶民の間で密かなブームになった生活法である。明治大正時代の資料を丁寧に紹介しつつ、簡易生活とはなにかを解説し、混沌とした現代社会を快適に暮すための方法をも描くといった内容で、こんな素晴しい本を一体誰が書いたんだッ!!!!!!と驚いてしまったんですけど、そういえば書いたの私でした、というわけで本日もサンキュー。