山下泰平の趣味の方法

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『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』について

『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』が4月に24日に発売された。

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書いた人として、本の解説というか、どういうものか紹介しておく。

本の内容

明治娯楽物語を紹介するついでに文章を引用し、当時の文化も考慮に入れつつ、当該書籍に書かれていない部分も補足しながら、色々なこと解釈していくといった構成になっている。主に紹介しているのは、明治娯楽物語とその移り変り、そして明治人の考え方である。

明治娯楽物語は超巨大な分野であり、その全貌が分るというものではないのだけれど、だいたいの形はつかめ、その一部には詳しくなれるっていう感じになっている。明治娯楽物語の分野にメチャ詳しい人が読んでも、ひとつくらいは知らない事実なんてものがあるかもしれない。

わりと変った書き方をしているので、最初面喰うかもしれないけど、読んでるうちに慣れると思う。というか最初はもっと誰が読むんだこれって本だったのだが、共同で作業してたら良い意味で予想してなかったような内容になり、わりと普通にみんなが読める本になったと思う。こういうのは創作の不思議だよなーっていうのが感想である。具体的な作業については、こちらにちょっと書いたので興味のある人はどうぞ。

cocolog-nifty.hatenablog.com

わりと危うい本になっている

心配していることがいつくかある。

まず、わりと基本的には絶対に触れなくてはならない事物が抜けている点だ。犯罪実録を語るのであれば、絶対にジゴマ団を登場させるべきだとか色々ルールがあるんだけど、編集さんと共同作業しながら改めて考えてみたら半分因習になりかけてることなんてマジどうでもいいかと思い直し、必要ないのはムシりまくり、全体的にスゲー分かりやすくなった。だからなんであれに触れてないんだ!!! みたいな人に対しては、邪魔だったからですとしか説明の仕様がない。

またわかりやすさを重視してるため、例えば明治娯楽物語の評論はほとんどないとしているんだけど、大正時代に民芸運動のからみで大衆文化ブームみたいなのがあり、多少の言及例(1、2冊?とか)もあったりする。でもまともに理解されているわけではなくて……みたいなことは書いていない。そういう部分を知りたいなら、誰かが論文かこういう感じの本を書いてくれるのを待つか、自分で調べるしかないと思う。

妥協というか現状を鑑みてあえてみたいな部分もあって、今回の本では明治娯楽物語を講談速記本、犯罪実録、最初期娯楽小説の3つのジャンルに分けている。本当はひとまとめに明治娯楽物語として扱ったほうがその実態に近付きやすい。でも全然知らない状態だったら、ジャンルがあったほうが理解しやすいので分けている。この辺りは人類全体の進化にあわせるしかない。

あとちょっと明治から大正の文学に詳しいですみたいな人にでも、突っ込み入れることができる感じになっているところがある。もちろん書いた私自身は、それなりに調査もしているわけで、一般人の20倍くらい突っ込みを入れることができる。面倒くささみたいなものを考えると、そういう突っ込み入れられそうなことは、あえて触れないのが一番いい。しかし雰囲気を読まずに必要なことはジャンジャン書いている。なんでそんなことをしているのかっていうと、雰囲気読まずに面倒なこともジャンジャン書いたほうが世の中良くなると思うからである。こういうのはなかなか難しい問題で、9割9分正しいけど1分微妙だから書かないみたいなのがある一方で、ルール上は正しいけどわりと間違ってんじゃんみたいなのは書いてもokみたいなのがある。色々とあるけど、個人的には全体的に利益になるんだったら、後々自分が嫌な気持になる可能性あっても書いたほうがいいのではっていう感じだ。

書きにくさに関連した話はもうひとつあって、今は素人が調べたものを発表するなみたいな潮流があり、ウィキペディアからコピペをしたらメチャ怒られる。私は流石にウィキペディアからコピペはしてないけど参考にはしていて、普段ものを書く時には基本的には電子辞書7冊くらいで調べながら、ウィキペディアに新しい情報が掲載されていないか確認みたい雰囲気です。ただ門外漢のド素人が書いているっていうのは事実であるわけで、そもそも明治娯楽物語の専門家がいるのかって問題はあるのだが、素人が昔の事を書いたものは一律wikiコピペだッ!!!みたいな人を説得する術などはない。だからムシっとくしかないんだろうけど、こういうのも楽しく昔のことを公開したいって人にとっては微妙だよなーって思っている。

過去に関する常識を増やすということ

過去の事を考える場合に、場面を思い浮べることがある。明治維新なら新撰組程度の雑なものだけど、そういったイメージもひとつの常識だと私は考えている。そのイメージが現実に近ければ、過去から続いて現在に至っている習慣に対して正しい判断を下せるようになる。そういう常識が沢山あるのが、良い社会なんじゃないのかなと最近思うようになってきた。

この本を読んでくれた人が、昔の出来事が過度に批判的に語られたり、無駄に理想的に描かれているのを見聞きした時に、少しだけ距離を置いて冷静に考えらるようになったら実に嬉しい。

後の世で少しだけ駄目な本になっていて欲しい

『立川文庫の英雄たち』という本があって、これは立川文庫関連の事柄を記述している実に素晴しい作品である。

立川文庫の英雄たち (中公文庫)

立川文庫の英雄たち (中公文庫)

作者の人の活躍もあって、一度は立川文庫がブームになったりしている。しかし現在の目からみると、わりと誤認がある。こういうのは仕方のないことで、昔より今のが良くなっているのは当たり前っていえば当たり前の話である。

私の本もそういうものになってくれたらいいなと思っていて、明治娯楽物語という分野の成立にちょびっとでも貢献し、後の世でこの本はわりと間違いがあるねと語られるようになったら最高だと思っているというわけで宣伝記事の最終回でしたサンキュー!!!

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