山下泰平の趣味の方法

これは趣味について考えるブログです

大河ドラマのいだてんで思い出した真偽不明の話

いだてんっていうドラマが放送されているのを知って、かなり昔に聞いたか観たか読んだかした真偽不明の話を思い出した。

明治時代、あるオッさんが人力車の車夫を集め、メダル狙いでオリンピックに出場させようとするんだけど、アマチュアリズム(プロは参加できない)が理由で参加できなかったというものだ。スポーツは貴族のものだったから、車夫なんてもっての外っていう感じである。テレビで観たのか、本で読んだのか、フィクションだったのか、私の妄想なのか全く記憶にない。

この話が明治のフィクションだとは、考えられない。明治の中頃に車夫が物語で活躍することはわりとあったが、その際に好んで使われたモチーフは本を読む車夫というものだ。今は車夫をしているが、学校を卒業して偉くなるぞといった雰囲気で、要するに苦学生を描いているわけである。車夫の身体能力を中心に据えた物語というのはかなり少ないというか、ほぼないような気がする。

日本のスポーツの受容から考えると、絶対に勝つために車夫も使うッ!! みたいな荒い戦略を思い付くオッさんがいた可能性はないでもない。日本のスポーツについては次の記事にちょっと書いている。

cocolog-nifty.hatenablog.com

明治のフィクションでスポーツをしているから身体能力がすごくなるのは、基本的に学生だ。絶対に勝つッ!! 的なスポーツ観を主題に置いて、学生が活躍する初期の娯楽物語としては『裸体旅行』がある。

f:id:cocolog-nifty:20190413093331p:plain

『裸体旅行 : 英雄小説 渋江不鳴 著 大学館 明治四一(一九〇七)年』

世界大会で敗北を喫した学生水泳選手はカジュアルに死ぬことを決意するも……みたいな物語である。やっぱし死ぬの止めて旅行してたら奴隷になりそうになったりして、後半はスポーツ無関係になるんだけど、とにかく明治には「日本は海に囲まれているから水泳したら絶対外人に勝つ」みたいな考え方があった。そして負けたら死ねよみたいな考え方もあった。だから車夫毎日走ってんだから足速いし絶対勝つだろ、オリンピックに出したら日本絶対に勝つし、負けたら死ね車夫くらい死んでもいいだろがみたいな雑なオッさんがいたとしても不自然ではないような気がする。

色々と書いてはみたけど、冒頭で紹介したエピソードの真偽は謎、わりと面白い話だなとは思うし、本当の話であって欲しいけど、誰かが考えた駄法螺なのかなっていう感じはする。真面目に調べりゃ分かりそうだけど、私にとっては謎は謎としておくほうが良いもののひとつかもしれない。それはともかくとして、ほぼ確実に明治娯楽物語に出てきたエピソードではないだろう。なんでそんなことが分かるのかっていうと、明治娯楽物語の様式から外れているからなんだけど、そういうことを感覚的に理解できるような本を紹介したいところだな。しかしそういう本ってなかなかないんだよなー、ちょっとアマゾンで探してみるかと思い、何気なくアフリカ人で検索してみたら偶然にも良い書物を見付けることができました。

<明治娯楽物語>の規格外の魅力と、現代エンタメに与えた影響、そして、ウソを嫌いリアルを愛する明治人が、一度は捨てたフィクションをフィクションとして楽しむ術(すべ)をどのようにして取り戻したのか、その一部始終を明らかにする書籍で、題名は「「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本」でした。こんな良い本を一体全体誰が書いたんだッ!!!!!!!! って驚いているところですけど、そういえば書いたの私でした。

そんなわけで今日もサンキュー!