お正月はめでたい。だからお正月にはめでたい本を読むのが良い。縁起が良い感じがする。落語なんかでも正月向けのネタがあり、とにかくめでたいものがお正月には向いている。というわけで、お正月向けめでたい明治娯楽作品を2つ紹介していきたい。
『天人娘 開明奇談 松林伯円 講演[他] 松声堂 1896』
天人娘 : 開明奇談 - 国立国会図書館デジタルコレクション
めでたすぎて遭難しそうになった奴ら
天人娘は『今回春の売り出しに何ぞ面白い高尚優美にして爽快活発の事も交じり其の中に充分艶気のある餘り長くないトいって極短かくもない、只面白いという新談はないか、あるなれば講演せよ』という無茶な要求に答えて書かれた作品である。
内容的に現代から見ると微妙なところがあるんで、本作は少しぼやかして紹介することにする。
物語は作者の伯円が清水次郎長の子分の池上庄太郎とともに、三保の松原の羽衣を見に行ったというエピソードから始まる。次郎長の子分庄太郎のタンカも出てくるし、伯円と弟子が羽衣を合理的に解釈しようと議論する様もなかなか面白い。これらは明治22年の出来事で、当時は実物の次郎長と会話したことのある人が生きていたんだねぇっていう雰囲気、この時点ですでにめでたい。
物語の本筋はっていうと、主人公は兄弟分とともに、嵐に巻き込まれ遭難してしまう。兄貴分は生死不明、男はとある土地に流れ着き、親切な家族に助けられる。やがて男は娘と恋仲になり、村から出て結婚をする。男は妻となった娘の出生を隠しながらも、商売に励み出世する。そんなある日のこと、男は兄貴分と再会、しばらくはなんの波風も立たなかったのだが、偶然にも兄貴分が娘の来歴を知ることになる。兄貴分は悪心を抱いてしまい、これを種にして夫婦を脅しにかかるのだが、明治四年の八月二八日に東京の太政官が出した官令によって四民平等となり、兄貴分もメチャ反省して全てが解決するという物語である。
一人も人が死なず、不幸にもならないという物語で、全ての差別を官令が爆破してしまうという快作でもある。そこにはただただ能天気な明さしかない。善人ばかり登場し、一時的に悪人となる者もいるが最終的には改心する。不幸になる人も出てこない、実に縁起の良い物語である。
勇壮少年軍学旅行 北村東紅 著 文陽堂 1901
よく分からないがとにかくめでたい
五人の少年たちが大晦日の夜に修学旅行をするという物語で、すでにめでたい。将来は文学者、商業家、工業家、軍人、冒険家になろうという五人の少年が、各々の持つ特技を活かして旅行をする。彼らは旅の途上で、父親を探す貧児と出会う。貧児の父親はかって商業界の俊英として活躍したが、世に絶望し出家し行方不明になってしまった。貧児に同情した彼らが、父親探しに一肌脱ぐ……といった物語である。
前半の軍学旅行では、冒険旅行術における保存食の解説や、旅行術などが紹介される。こういった場面は、冒険旅行に憧れる少年たちを熱狂させたのかもしれないが、軍学旅行は途中で終る。後半では貧児の父親により、各界の成功者、例えば岩崎弥太郎等のエピソードが語られるのであるのではあるが、通読するとなにが書きたいのかよく分からなくて実に縁起が良い。やがて成長した五人の少年は、夢を叶えるための洋行することとなる。旅立ちに際し、再度世に出て成功した親子が五人を見送りにやって来る。死人が出ず、登場人物も基本的に善人ばかり、さらに結末までも縁起が良い。めでたしめでたしといった作品だ。
本作は基本的に、未来に向う子供たちへの教訓の様なもので満されている。しかしそれだけではなく、年末、年明けあたりに読み、一年の計を練るための書物としても書かれている。現代では存在しないジャンルの小説で、実に不思議な雰囲気がありめでたさが極まっている。
ちなみに作者の北村東紅は、次のような人物だ。
- 軍人として台湾へ行った
- 岩崎小弥太の庭内で仕事をしてたことがある
- 吾輩は豚というパロディー作品を書いた
- 植物にも興味があった
吾輩は豚、タイトルの時点で面白く、めでたさが極まっている。
私は基本的にイベントには興味がないんだけど、お正月は別格で意味なく興奮する。なぜなら正月はめでたいからでとにかく最高、新年早々実に縁起が良いッ!!! というわけで今年もよろしくお願いします。
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