1980年代の青年にスマホゲームの面白さを言葉で伝えるのはかなり難易度が高い。スマホゲーム面白いし、話せば分るだろって考える人もいるかもしれない。だけど絶対になにがあっても説明するの無理だと思う。そんなもんよかインベーダーゲームのが面白いだろ、車に乗ってたほうが最高だわっていう反応が返ってくる気がする。
反対も同じで2040年から人間がやってきて、未来で流行している娯楽について語られても、なかなか理解するのは難しい。勝手な想像はできるけど、実感するのは無理だと思う。やっぱり娯楽の現物がないと、本当に理解することなんて出来ない。
なんでこんなことを考えたのかというと、この間から明治娯楽物語についての本を書いていたからだ。その本は過去のイメージを少しだけ鮮明にすることを目的にして作ってる。例えば幕末のことを頭に思い浮べてみる。私はあんまり興味がないので、貧素な幕末しか考えることができない。幕末に興味のある人ならば、幕末っぽいものを想像することができる。研究者ならば、さらに正確な風景を描くことができる。私の作ってる本が対象としているのは明治から大正あたりの小説の世界で、読む前よりもほんの少しだけ広くて面白い風景を描けるようになるようなものになる予定であるような気がしないでもない。
そんなものを書いてる途中で、やっぱり現物を見ないと分かんねぇよなっていう、根本的な疑問が湧き上がってきた。もちろんわりと丁寧に物語の解説はしていて、当時の雰囲気が理解できるように引用をしまくっている上に、地の分に作品の一文を少しだけ織り込むみたいな技法も使っている。それでもやっぱり実物を読めば、よりよく分かるのだがなぁっていう思いがある。
ただなかなか明治娯楽物語は読んでもらえない。実際、過去に講談速記本を何度か復刻し、ネットに公開していたことがある。ところがこれが読まれないわけだな。講談速記本が面白かったのが明治の35年くらいから40年あたり、古いものと新しいものが混ざりまくって、独特の雰囲気が出ている上に、物語としても楽しめないこともないといった雰囲気である。だからその時代のものをテキスト化してたんだけど、これが全く読まれないわけだな。私は慣れすぎちゃってて酒飲みながらでも読めちゃうくらいなんだけど、多分普通の人からしてみると古臭すぎて読む気なくすんだろうと思われる。あと今の娯楽と比べると面白くもないし、そりゃ誰も読まないよねぇって思う。
というわけで明治が駄目なら大正時代だッ!!!!!っていう粗雑な戦略を採用し、『忍術漫遊戸沢雪姫 春江堂 春江編輯部編 大正一二(一九二三)年』っていう作品をテキスト化して解説付きで公開していこうと思う。大正12年の魔法少女みたいな作品なんで、今の人も興味を持てるんじゃないのかなって想像してるんだけど、どうかなっていう感じである。
『忍術漫遊戸沢雪姫』は、明治娯楽物語の技法で書かれている。明治娯楽物語は大きく『講談速記本』『犯罪実録』『最初期娯楽小説』に分けることができる。それらの技法が概ね使われていて、入門向けにはなかなか良い。ただちょっと洗練されすぎていて、どっちかっていうと大正時代の子供向け娯楽作品に近いことになってしまっているのは残念な点ではある。あとこの作品は立川文庫の類似書なんだけど、他のシリーズと比べると、ほんの少しだけ丁寧に作られている。だから現代人でもギリ楽しめるんじゃないのかなって思ってるんだけど、この辺りは私の感覚もだいぶ狂ってきてるんでよく分からない。
テキストは完成している。公開する場所はまだ決めてない。なるべく読みやすい場所がいいなって思ってんだけど、まだよく分かんない。とにかく来週くらいから公開していこうと思います。