山下泰平の趣味の方法

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カクヨムで『講談速記 時代薄小説 真田幸村』を公開しました

大河ドラマの真田丸が人気あるみたいなんだけど、あれは真田幸村じゃなくて真田信繁だと思う。家にテレビないから見られないけど、だいたいそういう感じだと思う。だから時代考証もきちんとしていて、忍者もでてこないらしい。

より正確な時代もののエンタメってのは、それはそれで面白い。だけど時代劇なんかに出てくる嘘っていうのは、昔の人らの創意工夫の結果でもある。例えば斬り捨て御免ってのが本格的に時代物に出はじめたのは、博徒(ヤクザ)の物語が流行しはじめてからです。博徒が正義だから、侍は横柄で嫌な奴じゃなくてはならない。だから切捨て御免をする。こういう工夫ってのは私は嫌いじゃない。

幸村に関しても、厖大な嘘の設定の蓄積がある。こういうものは、バカにしたものでもない。なかなか良いものです。

時代の流れを眺めていると、今後は正しい物語はどんどん流行してくると予想できる。人間って余裕がないとエンタメにすらメリットを求めちゃう。嘘の歴史なんてものは、なんの役にも立たないから、どんどん人気なくなってくと思う。

だけど我々の先人たちが作りあげてきた輝かしい嘘の歴史を、ないがしろにしちゃうのはちょっともったいない。というわけで『講談速記 時代薄小説 真田幸村』を公開することにしました。

kakuyomu.jp

これは『講談速記 時代薄小説 真田幸村』に解説とふりがなを加えてある。註釈の部分は■■■みたいになってるのですぐ分かると思う。ただし私はこういう本読みすぎてて、普通の人だとどの部分が分からないのかもう分からなくなってる。分かんないところとか教えてくれたら反映していきたいとか思ってます。

そもそも『講談速記 時代薄小説 真田幸村』とはなにか? 明治時代のある時期に彗星のように現われ、完璧に消えてしまった『講談速記 時代薄小説』というジャンルの一作品である。

『時代薄小説』ってのは、下のようなレベルの低い志を持って作られた。

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要約すると下みたいな感じ。

  • 長い小説を読むのは面倒だし金と時間の無駄
  • だから面白い場面だけ掲載するしてページ少なくする
  • ページ少ないと薄くて軽くて安くてすぐ読めるからマジ得(トク)

今を生きている人にとっては価値がないけど、明治の人にも価値がない。だから10冊くらい発売されたものの、売れなくてすぐに消滅してしまった。

『講談速記』は、現代のエンタメの祖先ともいうべきもので、詳しい解説はここに書いてあります。

山下泰平のタンブラー — 講談速記本とは

講談速記本が日本の文化に与えた影響ってのは計りしれないくらいある。その割にはあんまり注目されていない。昔の日本人ってのはバカだったんで、スマホゲーム面白いからファミコンとか文化的な価値ないみたいなノリで生きていた。というわけで古いプラットホームはどんどん忘れ去られていく。まあ昔の奴らはバカだから仕方ない。

話を戻すと『講談速記 時代薄小説 真田幸村』自体はあんまり面白くない。ただ講談速記本へのとっかかり、あるいは文化史的な資料としてはわりと良いものだと思うんで、気が向いたら読んでみてください。