山下泰平の趣味の方法

これは趣味について考えるブログです

我々は SNS で雰囲気読めないオッさん化してしまう

ソーシャルネットでの投稿は、特定の友人だけに公開しているように感じてしまう。しかしそれは錯覚であり、インターネット上に個人に関する情報を公開していることにはかわりがなく、個人情報を自分でコントロールできなくなってしまう可能性は常に存在している。我々はSNSの危険性を常に認識しておかなくてはならない。

一つだけ例え話をしよう。

巨大ショッピングモールイオンで、両手に電卓を持ち振り回しながら大きな声で元気良く『電卓デンデンッ! 電卓デンデンデンデンデンッ!!』と延々と唄い続けているオッさんがいたとしたら、ほとんどの人は一刻も早くその場を離れようとすると思う。警備員さんに助け求める人もいるかもしれないけど、それは止めておいたほうが良い。警備員の人の立場になって考えてみよう。俺の時給920円だぞこの金であんな奴の相手しなきゃいけねぇのかよクソがッ……ってすごく嫌な気持になると思うよ。人間は常に相手の立場で物事を考え優しい行動をすべきである。そういうことすら出来ず警備員さんに助けを求めた奴はカス野郎なわけだけど、とにかく電卓野郎と積極的に関わろうとする人はほぼいない。

しかし雰囲気の読めないオッさんならば、電卓野郎を指差しながらバカデカい声で『ヤッカマしい気狂いがいるなーなんだあのクソ馬鹿野郎は』とか発言したりする。「あなた、お止めになって……」奥さんがたしなめても雰囲気が読めないから『あいつずっと電卓振り回して唄ってるぞあの馬鹿なに考えてんでしょうねッ!』と大声で隣にいた眼鏡のサラリーマンに話しかけることだろう。

サラリー人間が電卓野郎を刺激するなよって眼鏡越しに冷い目で牽制しても、オッさんは雰囲気読めない上に産れつき体当りバカ野郎だから電卓野郎へ向ってダッシュ、『あんたやかましいんだよみんなが迷惑してるだろッ!』などと絶叫しながらタックルしたりするけどこれは逆効果、電卓野郎は衝撃を元気に変換するスキルを持つため、オッさんのタックルによってさらに元気が良くなってしまう。

『電卓デンデンッ! 電卓デンデンデデンデデーンッ!!』 電卓ソングは高らかに響きわたり、あの巨大なショッピングモールイオンですら全て(駐車場も含む)が最悪の雰囲気に包まれる。この事態を解決する方法があるのだろうか……イオンの役員たちの最も長い一日の幕開けであった。

こんなことになってしまったら大変だけど、安心して欲しい。こういった状況はめったに発生しない。とあるイオンモールの来店者数は1日に約25000人という。統計学に詳しい人なら1イオン=25000人とすぐ分ると思うけど、雰囲気が読めないオッさんというのは16イオンにつき1人しかいない。いわば選ばれし勇者だ。電卓野郎に至っては80イオンに1人、電卓野郎と雰囲気が全く読めないオッさんが出会う可能性に至っては96イオンくらいに低い。だから上記のような状況に陥ることはない。これがリアルワールドである。

ところがメディア、特にインターネットというものは、人間の精神を拡張させるという機能を持つ。

グーテンベルクの銀河系―活字人間の形成

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良いところが拡張されたら良いんだけど、多くのケースでは人格のゴミみたいな部分が超拡張されるため、下記のようなことが起きてしまう。

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個人情報保護のため一部ぼかしを入れてあります

状況を説明するとソーシャルネットで感じの良さそうなかわいらしいお嬢さんの投稿を見た人間が、どういうわけかその顔と行為に病的ななにかを感じたらしく、単なる精神病では? と発言してしまったという雰囲気である。ソーシャルネットではこういったやりとりが日々なされているわけだが、なぜそんなことになってしまうのだろうか?

まず SNS によってちょっと微妙な感じな奴の馬鹿さが拡張されてしまい0.2イオン程度の馬鹿さが発揮される。0.2イオンだから甘い飲料二本一気飲みする程度で収まっているが、日常生活ではなかなかお目にかかれない人材であるから、それを見た人間には違和感が発生する。リアルワールドならそういう人材を刺激しないようにムシるかダッシュで逃げるかの二択だが SNS だとこいつ馬鹿かとか精神病かこいつとか投稿したところで、そんなにリスクない。だからついつい投稿をしてしまう。

先ほどの事例で考えると、街で写真の女性を見かけたとして、お前は精神病なんですかと質問する狂った人間はほぼいない。つかそんな質問する奴こそが全身おかしな病気になってると思うし、そこまで雰囲気が読めないオッさんというのは、3イオンくらいの貴重さがある。

それでは『単なる精神病では?』と投稿した人は3イオンなのかというと、そういうわけではない。ちょっと疲れているところに、イラつく画像を見てしまったのでうっかり思ったことをそのまま投稿しただけの善良な一般市民である。ソーシャルネットで人間のゴミさが拡張されてしまったからこそ起きた状況だろう。人格のゴミさ拡張してない万全の状態で、疲れていなかったらあんなことは書かない。むしろ人をイラつかせる画像を投稿した人間の自業自得とも言える。客観的に見ても、甘い飲料を二杯一気飲みする人間など完璧にイカれている。精神病か糖尿病か分からないけど、とにかく病気じゃないかなって思うのは仕方ないと思う。そもそも人を傷付けようと思って投稿したわけじゃない。逆に自分はとても疲れてるのに他人を叱咤激励し励まそうする人徳者である可能性が高い。なんでそんなこと分かるのかというとあれ投稿したのが俺だからなんだけど、そんなことは小さな問題で、大事なのはこういうことが誰の身にも起き得るという点で、我々は SNS で雰囲気読めないオッさん化してしまう。

事実、あの写真の女性に対して、私以外にもこんなことを書いてる人がいる。

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先の発言は思いやりあったけど、こっちは思いやりない。冷徹な雰囲気があるし、病気かどうか分からないのにいきなりそんなこと言われたらビックリすると思う。そもそも病気だったとしてなおすのもなおさないも、自分で決めることである。全員が健康でなくてはならないというのはファシズムだし、完璧に余計なお世話だと言える。あの発言は許せないなという世間の声、正義の叫びが聞えてきますね。

ただ精神疾患とか精神病って言われたとして、悪口だと感じてしまうのもおかしい。そもそも精神の病気って一時的な状態だよね。餅食ってるのと同じだと思う。餅を食ってる人がいて、餅食い野郎って呼んだとして、それは悪口なのか? 確かに餅を食ってる瞬間は餅食い野郎だけど、餅を咀嚼し飲み込んだ時点で餅は食っていない。消化しているから餅消化野郎である。この様に一時的な状態を悪口とするのはかなり違和感ある。

治らない精神病もあるのではって話もあると思うけど、それじゃハゲとかデブは悪口かというと、こちらも微妙でデブは可逆(Reversible)である。デブであっても痩せる可能性ある上に、デブの状態がデメリット多いのかというとそんなこともなくて、デブは勢いあるから中年になってもドデカ盛り弁当とか食うことできる。

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参考資料

その一方でハゲは不可逆(irreversible)だが別にハゲてても良いと思う。ハゲでも良い人はたくさんいます。むしろハゲは頑張りの証しだとも言える。ハゲた人に対する慰労のようなものを国は出すべきだ。あと気休めでサクセスとかいう育毛シャンプー使ってるけど、メントールみたいなの入れるの止めて欲しい。スカっと爽快とかホザいてるけど寝るまえに爽快になる意味ねぇだろが、ちょっとはものを考えて欲しいところですね。サクセス、俺にはあんま効果を感じられないしもう使うの止めるけど(ブラシは使い続ける)、もう一度この発言を見てみよう。

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この発言をした人のことは知らないけど、これをリアルワールドに当てはめると、街で甘い飲料二本一気飲みした北条かやさんを見かけたとして、こんにちはお前は精神病なんですかなんで病院に行かないんですか? お前完璧に病気だろ1日8回病院行けよなどと発話する狂った人間だということになる。そこまで雰囲気が読めないオッさんは4.5イオンくらいの貴重さがある。

しかし4.5イオン分の雰囲気が読めないオッさんになるまでには、厳しく辛い毎日を乗り越えなくてはならない。子供の頃から続く家族との軋轢、担任のストレス、上司からの叱責、部下からの冷笑、そういったものを全て受け止めた上で『おいヤカマしハゲどこいった田畑だよ田畑』などと職場でナチュラルに人権侵害絶叫を繰り返す体力が必要で、常人にはとうてい耐えることなどできない。電卓野郎に突っ込んだオッさんも、今や指とかめり込んで電卓野郎に取り込まれようとしているにも関わらず『フッ、どうやら俺は貴様の覚悟を甘く見ていたようだ。ならば俺も秘奥義で応えよう。喰らえッ! 無指流破瀑ッ!!』など秘奥義を公開するスタミナある上に、オッさん慣れてしている奥さんは先に家に帰ったため、誰もオッさんを止めることはできない。このくらいの元気がなくては雰囲気読めないオッさんになるのは無理なのに、ソーシャルネットにおいては弱い一般人も、ようクソバカいつ死ぬんだとか、どうした気狂い変な顔してなどといったざっくばらんな表現を頻発してしまう。これは文明化された日本社会では許されない行為である。

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電卓野郎

明治時代の日本はまだ文化度低い上に、人間も生成りに近かったため、日本国民全員が雰囲気読めないオッさんであった。全員が駄目だから少々荒っぽい表現を使っても許されてしまう。事実彼らは気狂いや精神異常といった表現を多用するし、自殺する奴や暴れる奴は面倒くさいから大抵狂人だと決めつけられていた。

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警察ですら調査が面倒だから、どうせ狂った奴が暴れたんだろといった扱いで事件を有耶無耶にする。これはちょっと偉い人に直訴したジイさんなんだけど、いろいろ面度くさいので狂人扱いされている。

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もっと酷いのだと面白気狂い大集合的なコーナーすらあって、こういう愉快な事件がわりと頻繁に掲載されていた。

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当時の新聞記者がバカだからこんなん書くんだろうと思いたいところだが、そういうわけでもない。夏目漱石はあの当時の水準としては異常なくらい高い品質の小説を書いていて、メチャ頭が良い。その漱石ですら面倒くさいとと他人を気違い扱いしてしまう。

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硝子戸の中(うち) (岩波文庫)

硝子戸の中(うち) (岩波文庫)

硝子戸の中は名作です

これだけ見ると明治って下等で最悪って思う人もいるかもしれない。しかしちょっと待って欲しい。私はこういう明治の人々が大好きである。だから明治人になりかわって弁明させてもいたい。

まず明治の日本の人々は西洋の文化を受け入れようとやっきになっていたという背景がある。科学的な思考を得ようと、分からないなりにも努力をしていたというわけだ。

犯罪者や自殺者による理解しがたい行為は、明治以前だと狐付きといった超常現象として処理されていた。ある意味ではタブーというか畏怖すべき対象というか、その辺はあんまり詳しくないので今どうやって適当にごまかすか考えてんだけど、なんだかんだと色々あるので、とにかく深入りすることを避ける傾向があった。

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史上最悪の家族紹介

ところが明治となり、精神医学という科学を知った人々は、人間の異常な行動も科学的に説明できる事柄なのだと彼らなりに認識する。これが狂人や錯乱者の乱用につながり、面白がる人すら現われてしまったんじゃないかと私は勝手に考えている。

もうひとつの大きな理由として、社会が貧弱だったという点もある。警察組織は、今とは比べものにならないくらいに不完全な存在だった。全ての事件を完璧に解決することなど出来るはずもない。新聞にしても同じで、通信設備はもちろんのこと、新聞社が持つ取材能力もやはり貧しいものだった。彼らはどこかでごまかし、やりすごすしかなかった。

もちろん理由はこれだけではない。こういった曖昧な事柄というのは、いくら調べたところではっきりとは分からないもので、身分のある人による犯罪行為は乱心として処理してしまうといった歴史的な理由もあるだろうし、ダーヴィニスムスや優生学、大正時代になるとロンブローゾの生来的犯罪人説なんかもこういった傾向に影響を与えているはずだ。

現代人からすると明治の雑さや荒さは、下等に見えてしまうことだろう。ただよくよく眺めてみると、明治人たちの奮闘や努力が見え隠れする。だから私はそういった下等さに愛着を持ってしまうんだけど、残念ながら今や時代は平成である。雑な表現を連発していると、インターネットでボコボコに叩かれてしまう。明治人なんて全員雰囲気読めないオッさんだ。我々に退化は許されない。だから丁寧な発言を心掛けていきたいんだけど、SNS が我々を雰囲気読めないオッさん化してくる。これは由々しき問題である。

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雰囲気読めなくなった俺たち

覚えておいて欲しいのは SNS サービスによっては、本人確認が行われた上で公式アカウントとして登録されているものが存在する。公的機関や企業、著名人などの情報を購読する場合には、公式アカウントが存在するかを、それぞれの機関のホームページなどで確認することを心がけることが重要だ。電卓デンデンとツイートしていたからといって、あの世から蘇えったトニー谷であるとは限らない。本人確認ができない場合には安易にフォローしないことが大切である。事実、雰囲気読めないオッさんを取り込んだ電卓野郎は、徐々に巨大化していく。これは絶対にトニー谷ではない。邪悪ななにかである。このまま放っておけば、地球が電卓世界になってしまう。電卓野郎の胸にまだうっすらと残るオッさんの顔が絶叫する。「ウォー早く殺せ俺が俺である間にッ!!!」オッさんの最後の願いに熱いものを感じたサラリー野郎は全てを終らせるため、封印した秘密基地リーマンケイブへ戻ると埃をかぶったパワードスーツを身に纏うのであった……

最後になってしまったが、この愚劣な記事の文字数は約6000ある。賢明な人であれば電卓デンデンあたりで読むのを止めている。ここまで読み切った君たちは賢明でない可能性が高い。だから私から君たちへ、インターネット標語をプレゼントします。

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  • 止めようよ 生命にかかわる 馬鹿なこと
  • 止めようよ 金にならない 馬鹿なこと
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最後まで読んでくれてサンキュー!

総務省『国民のための情報セキュリティサイト』を加工して作成